※楽譜の作成等で常日頃から当サイトの運営に多大なご尽力を頂いている、大阪パイピングクラブの“bugpiper”さんが2006年夏にスコットランドを旅行されました。これは、その旅行記です。
●日程:2006年8月17日〜9月4日
●コース概略:伊丹>成田>ロンドン(1泊)>カークウォール(3泊)>オウバン(3泊)>グラスゴウ(7泊)>ロンドン(1泊)>成田>伊丹
1.成田〜ロンドン着
出発の少し前に英国でのテロ発覚があり、荷物の制限が厳しくなるとのことでしたが、成田での検査は思った程ではありませんでした。ただ最初、長蛇の列の最後尾に並んだ時はこの後どうなるかと心配しました。
ロンドンのヒースロウ空港の入国検査で目的を聞かれ、バグパイプのレッスンを受ける旨を言うと隣の検査官にそのことを伝え、二人で笑いだしました。こちらの僻みかもしれませんが、その様子がけっして好意的でなく、なんとなくバカにしたようしたようで、イングランド人のスコットランド文化に対する姿勢ではないかと、勘ぐってしまいます。
明日乗る予定のスコットランドへの国内便の出発ロビーを見に行くとえらく混雑。いささか憂鬱になりましたが、「まあ、なんとかなるさ」と列車でホテルに向かいました。
2. カークウォール(Kirkwall)へ
ホテル到着したのが夕刻の上、翌日早朝出発のためこの時はロンドンでは何の見物をするでもなく、再びヒースロウ空港から、スコットランドの最初の目的地カークウォールに向かいました。
昨日は心配しましたが、国内線の出発ロビーは空いていてなんの問題もなしでした。経由地のアバディーン空港に着くとキルト姿の人が居て、スコットランドを実感。
カークウォールはブリテン島最北端から20kmほど離れたオークニー諸島の一番大きな町です。
以前私がバグパイプバンドに所属していた時に一度訪ねたことがあり、またその後、先方のバンドが訪日したこともあって、バンドのメンバーの何人かとメイル、手紙の交流が続いていました。
是非もう一度行きたいと思っていた念願がかなっての今回の訪問です。Hoy 島にある“Old Man of Hoy”などを案内してもらいました。
“Old Man of Hoy”というのは Hoy 島の海岸に立っている、高さは130mほどもある丁度煙突のような岩です。ぜひとも一度、近くで見たかったので案内してもらいました。残念ながら岩は濃い霧の向こうに霞んでいましたが…。
高い崖の上が見物ポイントです。ここで持参のバグパイプを取り出し“Lament for Mary MacLeod”演奏しました。ピーブロックはこれしかレパートリーがありませんので…。
老人(Old Man)は下手なパイピングにさぞかし苦笑したことでしょう。
道はピート地のためクッションが敷いたようで気持ちがいいのですが羊が放牧されているため、あちこちに糞があり、大きいのはさけて歩きましたが、小さいのは構っていられません。
着いた次の日は土曜日で、丁度、KCPB (カークウォール・シティ・パイプ・バンド) のパレードがありました。オークニー諸島は一番大きな島でさえ日本の淡路島より小さい程度なのですが、それでも3つのパイプバンドがあります。このパレードの後で小さな打ち上げの集会がありそこでメンバー2人と一緒に“Lochanside”を演奏しました。私が「ピーブロックが好きだ」と言うと、その2人の外にも、特に年配のメンバーは喜んでくれました。
オークニーでこの他に見物したのは、Mull Head、農家博物館、小人の岩(古墳)、救命ボート博物館、戦時燃料基地博物館、それと農業祭です。
それにしても、オークニーは寒かったです。なにしろ8月というのに B&B では暖房が入っていた程です。滞在中日本人らしい人は見かけませんでした。
3. オウバン(Oban)
Oban で開催される“The Argyllshire Gathering”のパイピング・コンペティションでは、当代最高のパイパーがその技を競うのですから、さぞかし世界中から大勢のピーブロック・ファンが集まり、コンペの会場には入場できないのでは? と心配していたのですが、全くの杞憂でした。
会場はホテルのレストラン、90人ほどの椅子が用意されていたのですが、開始時は1/3程の入り、勿論日本人は私一人でした。一番混んだ時でも半分入ったかどうか。
それはともかく、コンペは最高でした。CD で聴いたり、写真や DVD でしか見たことのない、超一流の凄いパイパーたちが次から次へと目の前で演奏してくれるのですから…。これで8ポンドは絶対安い!
休憩時間に3人のジャッジ(Andrew Wright、John Wilson、John MacDougall)に持参したキルバリーのスコアブックにサインをもらいました。
内心の声(家宝になるだろうけど、家族は誰も分かってくれないだろうなあ〜)
以下、Senior Piobaireachd コンペティション出場者の演奏風景です。
1)Murray Henderson:“My Dearest on Earth Give me your Kiss”
・チューニングの演奏を開始後しばらくしてドローンを調整。バッグを抱えなおす。
・パイプスはシルバー&アイボリー。チャンターはソウル無し。
・シルバーはよく磨かれていて奇麗。ブローパイプはプラスチック。バッグは不明。
・左指の親指に結構力が入っている様子。
2)Jack Lee:“The Daughters Lament”
・パイプスはフルシルバー。チャンターはウッド。ブローパイプもシルバー装飾。バッグは不明。
・チューニング中は目を開いていたが、演奏に入ると目を閉じる。
・写真で見るよりずっと大きく見える。
3)Greg Wilson:“Lament for the Harp Tree”
・アイボリーのフェルール。ソウル無しのチャンター。
・バッグは黒色(バナタイン?)。
・これまで3人ともチューニング中に鼻を指でぬぐう。
4)Dr. Angus MacDonald:“Macleans' March”
・パイプスはシルバー&アイボリー。チャンターはソウル無し。バッグは黒。
・左肩がかなり上がっている。
ここで20分休憩。3人のジャッジにサインをもらう。気軽に応じてくれる。
5)Iain Speirs:“Port Urlar”
・アイボリー・パイプス。ソウル無しのチャンター。バッグは革っぽい。
・チューニングは比較的短時間に終わった印象。
6)Robert Wallece:“Lament for the Laird of Anapool”
・シルバー&アイボリーのパイプス。チャンターはソウル無し。
・ややひざを曲げて歩く。
・HighG からの HighA は親指を離すのみ、他の音からの HighA は普通の指遣い。
ここで13時になり昼食休憩。再開は14時から。
7)Roderick MacLeod:“My Dearest on Earth Give me your Kiss”
・シルバー&アイボリーのパイプス。ウッドチャンター。
・チューニングの途中でスポランからハンカチを出して顔の汗を拭く。
・チャンターのテープを修正する。
・クルンルアのダブリングの時は静止してフットリズム。
8)Niall T. Matherson:“Macleans' March”
・シルバー&アイボリーのパイプス。チャンターはソウル無し。バッグは黒。
9)Angus D MacColl:“The Daughters Lament”
・シルバー&アイボリーのパイプス。チャンターはソウル無し。バッグはケンモア。
・こちらに背を向けてチューニング。かなりドローンのスライドが多く出ている。
・テナーでは5mm以上黒いヘンプが見えている。
・バスでは両方のスライドがほとんど全部伸ばしている。上側は黒のヘンプが見える程度。
10)Stuart Liddell:“Port Urlar”
・シルバー&アイボリーのパイプス。チャンターはウッド。
・シルバーはあまり綺麗に手入れをしていない(この人のみ)。
・バッグをジャケットの脇の中に抱え込んで演奏。
・ドローンのスライドを調整せず。
11)Colin R MacLellan:“Lament fot the Harp Tree”
・シルバーのパイプス。チャンターはソウル無し。バッグ不明。
・チューニング中しばらくLament for the Patrick Og MacCrimmon の Urlar を演奏。
・チャンターのテープを修正。
・この人のみジャケットではなく薄い紺色シャツ。チューニング開始時から汗にぬれている。
・やや前かがみ。
Senior Piobaireacd コンペが終わると3人の英国人が話しかけてきました。1人は東京パイプバンドにいたことがあるとのこと。それで日本人を見かけて声をかけてくれたのかもしれません。
その人たちに誘われ MSR(Former Winners)コンペ会場へ。ここは小さな体育館程度の大きさ。かなり観客も入っていました。
3人の内1人が「隣にいるのは Murray Henderson の家族(奥さん、二人のお嬢さん)だよ」と教えてくれました。そのご家族に日本から持参した彼の CD を見せるとにっこりと会釈。
Murray Henderson 自身とは、彼の演奏終了後、会場入口で挨拶。握手の写真をとり、サインに応じてくれました。われながら相当ミーハーです。
オウバンで見物したのはウィスキー蒸留所(銘柄はOban)、廃墟の城、聖コロンバカテドラル、マル島のデュアート城(小さな船で1時間ほど渡り)などです。
デュアート城でバグパイプを演奏しましたがドローン、チャンターとも音が安定せずメロメロでした。
ここはオークニーほど寒くはありません。
興味深かったのは街のあちこちの表示や、オウバンとグラスゴウの間の鉄道駅の各駅名表示は英語とゲール語が併記されていたことです。
4. グラスゴウ(Glasgow)
グラスゴウでは The College of Piping でレッスンを受けました。1時間のレッスンを日に3回、5日間で計15時間のレッスンです。
先生は1日目が P/M Joe Wilson、2日目からは William Morrison。私のレベルでは、そりゃ、もったいないものです。
二人にはこれまで自覚していた弱点は LowG で、これを含めて今後の最重点課題を見つけてもらうことを依頼しました。結果、やはり課題は Bottom Hand、特に LowG とのことでした。
嬉しいことにパイプスは“Oh, good. No Problem.”でした。
ドローンも安定、ブロクイングもよい、パイプスの手入れもOKとのこと、勿論私のような初心者レベルとしての判定でしょうが…。
●運指で特に指導を受けたことは
1)指を上げるときは揃え、あげすぎないこと(およそ2センチほどでしょうか)。
以下 P/M J.Wilson の書いてくれたメモです。
“Don't lift the fingers too high-keep them at the same height when off the chanter.”
・これは Crossing Noise を防ぐ(上げ過ぎていると抑えるのに時間差が生じる)ことと、確実に指穴を塞ぐために重要とのことです。
2)どちらでも間違いではないが、D - Throwing は Light を勧める(この話題はピーブロックでは関係ありませんが)。
・一般に年輩、プロは Light を、若い人は Heavy を好む傾向がある。「ほら、このように Light の方が音がきれいだろう?」。
3)スケールや装飾音の練習は LowG から始めること。上方向だけでなく下方向も練習すること。
・これについては両方とも LowG の弱点発見と克服に特に効果があることが分かったことを伝えると、よく理解したと喜んでくれました。「LowGは皆苦手であるから安心せよ、練習していれば上手になれる。」
4)練習は正しく(当然でしょうが)
・やり直しで行の途中からスタートする場合、ついつい G-grace なんぞを入れると、「違う違う、そこに G-grace はない、やり直し!」です。とにかく楽譜通りの音を出すことを要求されました。
指導してもらったうち“Lament for Mary MacLeod”については「Urlar、Singling、Doubling はよくできている。ただし、各 Line の最後の LowG はストライクではなくゆっくりと。Cadencesはもう少しすばやく。Taorluaths、Crunluaths はこれからの課題、両方 LowG をしっかりと。指遣いに時々間違いがある(これはあせって次の音を半分準備してしまうためです)。」という指摘でした。
また“Lament for Mary MacLeod”のカンタラックを書き込んで行ってチェックして欲しかったのですが、ざっと見て「合っている、大丈夫」と熱心には見てもらえませんでした。
ライトミュージックではスコアを間違って覚えている箇所の指摘をかなり受けました。
レッスンの結果、今後全体に均等に練習するのではなく、特に Bottom Hand に注意を絞って練習する、という方向性が得られ、大変よかったです。
なお、今後 CoP のレッスンを受講される予定のある方の参考までに、レッスンの様子を…。
(私が受けたのは Weekly Lesson )
・1レッスンが1時間で、1日3レッスンです。間におよそ1時間の休憩(その間に別の人が受けている)。
・行けばレッスンをしてくれるのではありません。「次は何をやる?“Scotland the Brave”? やってごらん。」というスタイルです。ですから Weekly Lesson ならかなりの課題曲を持っていったほうがいいようです。
・レッスンとレッスンの間は空いている部屋で練習ができます。
・非常に熱心に指導してくれます。William Morrison なぞ、顔を真っ赤にして「違う、違う、指をよく見て!」。こっちは益々緊張して、いつも出来るはずの指遣いがまるでダメ。
・1時間を3回は相当疲れます。
・基本がいかに出来ていないかを思い知らされましたが、最後には「よくなった、よくなった」と慰めてもらいました。
CoP ではまた、偶然 Robert Wallece の練習(楽しんでいるだけかも)を校長室前の廊下で聴くことができました。
その後、カンタラックを吹き込んでもらった CD のお礼(この理由は要するに入室するためのこじつけ)とオーバンで感激したことを言うと喜んでくれました。
またオーバンでの聴衆が少ないことに驚いたことや、日本でも数は少ないが熱心なピーブロック愛好家がいることなども話しました。
日本のパイパーのため来日可否を尋ねたところ「喜んで、交通はエコノミーでOK、レッスン料は高くない、高くない、そのための CoP である。」とのことです。
ホームページなどでの気難しそうな写真とはまるで違い、非常ににこやかに応対してくれました。
グラスゴウで見物したのは交通博物館、ケルビングローブ美術館&博物館、大聖堂、聖マンゴー宗教博物館、古い家のプロヴァンスロードシップなどです。
5. 荷物のこと
テロ騒ぎで荷物の制限が厳しくなりそうでしたので、荷物には気をつかいました。
預け荷物は重さ制限、機内持ち込みは寸法制限のため重くてかさばらない本などをリュックに詰めて機内持ち込みとしましたが、肩への負担が大きくそりゃ、疲れました。
それにしても、地下鉄の階段などエスカレータなどはほとんどなく、階段を使っての荷物運搬は実に大変です。日本の交通機関(特に関西)はよく整備されています。
6.ロンドン
ロンドンは経由地で往路では宿泊のみ、帰路で午後半日と午前半日の余裕があり、少し見物ができました。
・ロンドン科学博物館:バベッジの階差エンジン、コッククロフト・ワルトンの高圧発生装置、様々な飛行機やエンジンなどに感激しました。
・ベイカー街221B:ご存知シャーロック・ホームズの住所です。架空の住所ですが記念館(要するにおみやげ店)がありました。無料のおみやげ店だけざっと見て有料の記念館はパスしました。
・そのほか大英博物館は特急通過、ロンドン塔とタワーブリッジは素通りです。
7. 日本とちがう! などなど
やはり寒かった。
なにしろ先に書いたように、オークニーの B&B では8月だというのに暖房が入っていました。またオークニーやオーバンでは野生のアザラシやイルカを見ることが出来たのは寒い気候のためでしょう。
寒いにもかかわらず女性はまるまると太ったおなかを堂々と出している姿が目立ちました。いやー、皆太っています。実に…。
グラスゴウとロンドンで地下鉄に乗りましたが、小さいです。天井が低くまた座ると前の人のひざとの間隔は30センチほどです。そこに太ったおばちゃんが乗る様子を想像して下さい。
また日曜のグラスゴウの地下鉄の始発は10時、終電は18時でした。これが失敗のもとで、B&B から市内見物に出て、気付くと乗っていたのが終電。帰途は徒歩で市街見物を余儀なくされました。
天気は晴、曇、雨、曇、晴と1時間毎に変化します。
駅などのトイレは有料ですが、博物館の入場料は無料、さらに博物館のトイレも無料。分からない?
キルト姿はイベント、お祭りを別にしてごく少数でした。まあ日本のキモノと同じでしょう。
日本人の姿:オークニーとオウバンでは東洋人の姿は皆無。グラスゴウではときたま。ロンドンではそれこそぞろぞろです。ただグラスゴウの B&B では日本の方が同宿でした。1週間ほど前から滞在、半年の予定でグラスゴウとロンドンで経済史の資料を調査するとのことでした。
インターネットで検索して見つけた B&B で、安いため、まあ日本人と同宿になる確率も高くなるのでしょう。