ハイランド・パイプに関するお話「パイプのかおり」

第18話(2004/5)

50才の記念に新しいバグパイプを…

■ 年代を経た Real Ivory の《趣(おもむき)》 ■

パイパー森は1976年に、当時としてはちょっと背伸びして(まだ学生だったので親の脛を大いにかじって)R.G.Hardie の All Real Ivory マウントのハイランド・パイプを購入し、この楽器一筋に演奏してきました。
 ワシントン条約の関係で、その後、Real Ivory マウントの新品パイプは入手が不可能(厳密に言うと「輸入は不可能」)になったのはご存知のとおり。というか、今となっては新品で本物の象牙をあしらったパイプが購入出来た時代があったことを知る人の方が少ないかもしれません。
 そんな訳で、現在では思いの外稀少価値の高いものになってしまった Real Ivory のパイプですが、稀少価値云々に関わらず、年月を経ても急激に変色することもなく、かえってゆっくりとその味わいを増して行く本物の象牙の独特の雰囲気は、他に代え難い《趣(おもむき)があります。そして、私は長年苦楽を共にしてきたこのパイプを手にする度にいつも何とも言えぬ満ち足りた気分にさせられます。

 例えば The Bagpipe Place Museum のページで様々なヴィンテッジ・パイプを眺めてみても、100年以上の年輪を重ねた Real Ivory ¥の味わいというのは格別だと思います。シルバーはいくら年代を経てもそれはただ表面がくすんでくるだけであって、磨き直し当初の輝きを取り戻してナンボの世界です。しかし、象牙の場合はそのもの自体が中まで徐々に色付き、味わい深くなって行くのであって、当然ですがいくら表面を磨いてもその色付きは変わりません。古くなればなるほどあめ色に色付き、さらに味わい深い《趣》がかもし出されるのです。


 さて、ここで「厳密に言うと輸入は不可能」と書いたのは、ワシントン条約(CITES)というものは、簡単に言うと「絶滅等の恐れのある稀少動物類(生死を問わず)の輸出入や採取・捕獲の制限に関する条約」ですから、その国が条約を批准した時点でその国内にその稀少動物類(生死を問わず)が存在すること自体は条約に違反する訳ではないのですね。ですから、日本がワシントン条約を批准したからといって、日本国内の象牙細工業者が在庫の象牙を使った象牙細工を加工して国内で販売することや、眼鏡フレーム製作会社が在庫のウミガメの甲羅を使ってべっ甲の眼鏡フレームを作り国内で販売することは何ら条約違反ではない、ということになる訳です。(詳しくはここ⇒

 しかし、国内で大きな象牙を使用する業界があった訳ではない(であろう)スコットランドにおいては、ワシントン条約が批准されたことにより、それまで細々と行われていた楽器類への装飾として象牙をあしらう道はほぼ完全に閉ざされてしまったことは想像に難くありません。

 象牙に関する昔話を一つ。私が1977年に Northumbrian Smallpipes のパイパー&メーカーである Colin Ross さんの New Castle の自宅兼工房を訪ねた際のことです。
 作りかけのパイプが無造作に並べられていた作業台の上に、ビリヤードの玉のようなものがころがっているのが目に付きました。その玉の用途について説明してくれたところによると、なんとそれはプラスティックの玉が主流になる前の古い象牙製のビリヤードの玉だとのこと。ノーサンブリアン・スモール・パイプは小振りなので、その玉を削り出して(つまりは象牙製の)マウントを作る、とのことでした。限られた象牙資源をリサイクルして有効活用していたのですね。


 さらに、象牙に関してもう一つ。
 実は、現在、生存している象の牙については、ワシントン条約の対象になりますが、なんと、シベリアの凍土から掘り出されたマンモスの牙については、その対象にならないとのこと。つまり、絶滅寸前の動植物は守らなくてはならないけど、もう絶滅してしまった動物はこの条約では関知しないという訳。…なので、他国間での流通、加工することなど何ら違法ではない、ということのようです。
 でも、実際のところマンモスの牙って世の中にそんなに潤沢にあるんでしょうか? 
 民主化後、善くも悪くも資本主義的考え方が進み、過度な拝金主義が蔓延しているロシアの一部の人たちが、目先の利益に目がくらんで人類全体の貴重な遺産を売り飛ばし、気が付いた時には何も残ってなかった、なんてことにならなければいいのですが。
 絶滅寸前の動植物を守ることも大切ですが、絶滅してしまった動物の遺産すら守れなかったら…。それこそ人類のエゴを痛感しますよね。


 さて、実は絶滅の危機に瀕しているのは象牙ばかりではありません。現代のハイランド・パイプを作るにあたって最も欠かせない素材、パイプ本体を形作るアフリカン・ブラックウッド(African Blackwood)もまた、資源枯渇の危機に瀕しているのです。

 お恥ずかしいことに、私はこれまで、現代の木管楽器には欠かせない素材であるアフリカン・ブラックウッドなるものが、どのような樹で、主にどこに生えていて(まあ、これについては「多分アフリカだろう?」という位は想像がつきますが…)、それがどのような状況にあるのか、つまり「原生林を伐採しているのか? それとも、植樹(栽培)されているものなのか?」といったことについては、全く知識がありませんでした。
 また、Yahoo などで、アフリカン・ブラックウッド、あるいは African Blackwood で検索しても、ろくな結果は得られません。ところが先日、例によってボブさんのフォーラムをうろついていたら、こんなサイトに出くわしました。

 これはまさにタイトルどおりの内容でして、冷静に見つめれば決して安泰とは言い切れないアフリカン・ブラックウッドの保全、そして繁殖活動を推進しているプロジェクトのサイト。
 なんと、このまま推移すると、ハイランド・パイプだけでなく現代の多くの木管楽器の生命線を握っているこの貴重な木材は、今後20年足らずで枯渇する危険性があるということなのです。

 プロジェクトの趣旨や活動、そしてこのプロジェクトを推進している中心人物の紹介などとともに、スワヒリ語で“mpingo”と呼ばれるこのアフリカン・ブラックウッドの《樹木》としての、そして《木材》としての情報が満載です。
 真面目なサイトなのでどこも膨大な英文が並んでいて、ちょっとたじろいでしまいそうですが、とりあえず、サイトマップをざっと眺めて、 Mission Statement を読んだ後、 The tree そして、The wood などの項目に目を通されることをお薦めします。

 現実から目をそらせてはいけません!

2006年8月号Piping Times によると、アフリカン・ブラックウッドの流通量の60%を占める最大の輸出国である、タンザニア政府は2007年1月以降、アフリカン・ブラックウッドの全面的輸出禁止を決定しました

■ いぶし銀の似合う世代に… ■

 2004年4月末に大阪のTMさんが上京された折、TMさんのご要望に応じて山根先生宅にご案内し、一緒になって先生の MacDougall(1792〜1919)、Peter Henderson(1880〜1973)、R.G. Lowrie(1881〜1980s)、Glen(1833〜1978)、といった老舗メーカーのヴィンテッッジ・パイプのコレクションと、ちょっと新しい複数の70年代 R.G.Hardie(1950〜) のパイプを見せて頂きました。(※ かっこの中は、それぞれのメーカーが操業していた年代)

 その、「ちょっと新しい複数の70年代 R.G.Hardie 」というのは、丁度私が東京パイピング・ソサエティーに加入して今のパイプを手に入れた当時、現在の私と同じ40代後半に差し掛かっていた山根先生が新品を購入されて愛用されていた Half Silver & Real Ivory のセット Full Silver のセット1台づつです。
 実は当時は、それらの新品のシルバーのパイプを見ても、キラキラしたメタリックな雰囲気がイマイチ好きになれなくて、それ程「欲しい!」とは思えませんでした。(というより、何よりも先立つものが…。)

 しかし、今回、先生の様々なヴィンテッジ・パイプと並んでそれなりに年期の入った懐かしい70年代 Hardie の渋いシルバーの輝きを見せてもらったところ「う〜ん、年代を経たシルバーっていのうは正に《いぶし銀》の世界やな〜」と、いたく感銘を受けてしまいました。
 これは、自分自身が歳を重ねることによって、やっと
《いぶし銀》の似合う年齢になったことの証、そしてそのことによる心境の変化なのかもしれません。
 そこで、私は今年9月に私自身が満50才を迎える記念として、24年後(今の山根先生の年齢ということ)にさらに渋くなって愛でていられるような「装飾入りシルバーをあしらったパイプ」を自分自身にプレゼントすることにしたのです。


 そこで、ボブさんの Technique & Instrument のコーナーの過去ログなども読みあさったりしながら自分にふさわしいパイプについての想いを巡らしてみました。

 その場合、一つの方法として、ボブさんのフォーラムの流通のコーナーなどを通じて何らかのヴィンテッジ・パイプを手に入れるという方法もあるでしょう。でも、私としては、見知らぬ誰かと年輪を重ねてきて「手元に来たときから年期が入っている」というような楽器を手に入れるよりも、どちらかというと、新しいパイプを手に入れて愛着をもって接しつつ「自らが歳をとるともにその楽器もまた年輪を重ねて行き味わい深くなる」という方に心惹かれるものがあるのです。

 また、シルバー・マウントとはいっても、Full Silver に全面装飾を施したものは値段が飛び抜けて高いことがネックなだけでなく、いくらなんでもあのギラギラした雰囲気と、ありとあらゆる面に施された模様が少々デリカシーに欠けて見えてどうしても好きになれません。歴史的に見ても、あれ程装飾過多のパイプってのはごく最近(主にWW2以降?)の趣向ではないでしょうか?

 …なんて、勝手に決めつけていたら、“Highland Bagpipe Makers”(by Jeannie Campbell )の MacDougall の解説ページでは、なんと1900年頃のプライスリストにちゃんと “Full mounted with Silver, with engraving or chasing”ってのが載っていました。
 解説を読んで理解したのですが、ヴィクトリア女王から「王室御用達」と認可されていた MacDougall のようなメーカーでは、王室を始め格式の高い名門にバグパイプを納める必要もあった訳で、そのような仕様があるのは至極当然のことなのですね。そこには、当時のプリンス・オブ・ウェールズであるエドワード7世が MacDougall のパイプを演奏している貴重な写真まで掲載されていました。

 でも、そういうことで言えば、やはり Full Silver のパイプってのは言ってみれば《見栄》の世界であって、実用にするバグパイプの本筋からは少々はずれているように思えます。バグパイプのハードウェアやメンテナンスについて解説している CoPカレッジ・チューター Part 2“Choosing a Bagpipe”の章でも「外観上最も好ましいのは Silver & imitation Ivory のセットである。そして、多くの一流パイパーもこのコンビネーションを最も好む。 」と書かれています。


 シルバーに施す装飾としては、以前はスコットランドの国花である Thistle をテーマにしたものか Celtic 模様あるいは Runic 模様といったところでしたが、最近はZoomorphic あるいはDregon といった動物系、そして、Acanthusといったもう一つの植物系も見られるようになって色々と多彩になっているようです。
 でも、私が最も心惹かれるのはやはりケルトの組紐模様を施した Celtic が一番です。そして、それに続いてZoomorphic あるいは Dregon という、やはりケルト系の模様に強く惹かれるものがあります。

 ところで、今回さまざまなメーカーのWebカタログを眺めていて、シルバーに手作業で装飾を入れるやり方として、実は3通りの手法があるということを知りました。

 一つは “Chased”という手法で、「打ち出し」模様です。この場合は鏨(たがね)などを金属面に打ち付けて模様を描き出すものです。作業に伴い金属自体は削らないので金属屑は出ません。想像すれば分かると思いますがソフトなエッジの模様が形作られます。

 もう一つは、“Engraved”という手法で、つまりは「彫刻」模様です。この場合は彫刻刀で金属を削って模様を形作るので、作業に伴い金属屑が出ます。そして、得られる模様は前者よりシャープなエッジのものになります。(以上の2つの例についてはここを参照

 さらに、もう一つは“Repousse ”(フランス語/ルポゼ?)という手法で、金属の板の裏面から、鏨(たがね)などを使って、模様を表面に打ち出す方法で、裏面から打ち出された突起の部分が模様を描く訳です。 David Naill のWeb カタログには通常の Engraved の他にこの手法のシルバーの例も掲載されています。とても気品のある装飾方法だと思いますが、でも、円柱型のシルバーに一体どうやって、裏側から模様を打ち出すということが出来るのでしょうね?

 …ま、シルバーワークに関しては、この Bagpipe Silver のサイトとかこの David Marshall さんのところを…。(マーシャルさんとことろは膨大な内容だからハマると大変だよ〜)

■ 理想のハイランド・パイプを求めて ■ 

 さて、インターネットのサイトを見ながらいくつかのパイプメーカーを対象に、候補をしぼって行くことにしました。当然ながら、ここ20数年の間に一躍、一流パイパーたちの圧倒的な支持を得るようになった David Nail のパイプは最初に思い浮かんだ候補でした。そして、その他、ボブさんのフォーラムを読み込んでいて知った(元々、私はバグパイプのハードウェアにそれ程詳しい訳ではありません)、このところ急激に評価を高めている、 C.E.KronMcCullum といった新興メーカーのものなど…。

 そして、パイプ製作を頼むのなら、パイプを実際に製作する「職人の顔が見えるようなパイプメーカーが良いな?」とも考えました。そのような意味では、以前 Lowland Pipes のドローンリードのことでお世話になったことのある、 David“blue”MacMurcRhie さんや、18世紀のハイランド・パイプを復元した Julian Godacre さん、そして、上で名前の出てきた Charlie Kron さんなどの顔が思い浮かびました。

 …で、あれやこれやと検討&熟考した末に、私は最終的に Dunfion Bagpipes の Half Silver Set をオーダーすることにしました。

 Dunfion Bagpipes “BAGPIPES FROM THE ISLE OF ARRAN”をキャッチフレーズとしているとおり、スコットランドのアラン島に工房を構える Henry Murdo さんによるパイプメーカーです。以前より、Piping Times で毎号見掛けるこのメーカーの広告で紹介されているパイプが、他とはちょっと違って非常に個性的な風貌をしているのがずっと気に掛かっていました。

※日本語で表記すると紛らわしいのですが、スコットランドの《アラン島/Isle o Arran》と、「アランセーター」で有名なアイルランドにある、主に3つの島から成る《アラン諸島/Aran Islands》を混同しないでくださいね。(両者の位置が分からない方は Google Earth で確認してください。)

■ 究極の選択、The Dunfion Bagpipes ■ 

 ハイランド・パイプのドローンパイプは通常“combing & beading”この用語集の該当項目を参照)と呼ばれる「細い溝の櫛毛模様と凸面が交互に並んだ模様」を旋盤とノミで掘り出す装飾が施されれるのが一般的です。あるいは、特にアンティックなスタイルの場合は全くのプレイン仕上げというのも見かけられます。
 それに対して、私の知る限りこの Dunfion Pipes だけは、ドローンパイプに手彫りで模様を彫り込むという仕様も用意されているのです。
 この手法は(彫り込まれる模様は別として)ある意味では全くもって伝統的な様式とは言い難いかもしれません。しかし、その模様がかもし出す不思議とトラッドな雰囲気は、ある時はゴリゴリの伝統的原理主義者でありながら、あるときは一転して革新を良しとしてしまう(というより、他人と同じである事を極端に嫌うという根っからのへそ曲がりな)パイパー森の琴線を大いに刺激してしまいました。中でも、特に「クラシックな短剣の柄(Dirk Handle)に施されていた編んだ革の握り手を模した」“Dirk Handle”という装飾に、完璧に一目で惚れ込んでしまいました。(シルバーのスタッドが最高の雰囲気!)
 シルバーに施されたケルト組紐模様と木部に施されたこの“Dirk Handle”模様のコンビネーションは、例えようも無い程に濃厚なケルティックな雰囲気をかもしだしていて、背筋がゾクゾクする程の魅力に溢れています。


 さらに、Dunfion では、Julian Goodacre さんが復元してBarnaby Brown さんが演奏している Joseph MacDonald の時代の復刻パイプでも特徴的なように、17、8世紀のパイプのイメージを強烈に感じさせる、Chalice Top(聖杯型)のデザイン(右写真参照)をオーダーすることができるのです。つまり、これは手彫り彫刻とは正反対にアンティックなデザインですから、パイパー森はここでは一転して伝統的原理主義者に豹変するという訳です。
 実は、山根先生のところで《いぶし銀》の魅力にとりつかれるまでは、2台目を購入するとしたら絶対に Julian Goodacre さんによるこの復刻パイプだと心に決めていたのですが、このパイプは価格がそれなりに高いということだけでなく、「自分のメンテナンス&演奏技量では、標準的なハイランド・パイプとはあまりにも違い過ぎるこの楽器の性能を十分に生かしきれる自信が持てそうにない。」という理由で、結局は諦めることにしました。私は基本的にコレクターの精神は持ち合わせていないので、自分が十分にこなせないような楽器を所有してしまうことに関しては、なんとなく罪悪感を感じてしまうのです。「楽器に対して失礼だ。」と…。
 …ま、その代わりと言っては何ですが、せめて少しでも Joseph MacDonald の時代(18世紀)の雰囲気を味わいたいと思い、この Chalice Top デザインに迷わず飛びついてしまったというところです。

 実は、大分後になって気が付いたのですが、この Chelice Top デザインのパイプというのは、この他に  Kintail でも、操業当時(1971年)からメインのパイプとしてカタログに載せているようです。しかし、このメーカー、どうやらここ10年程の製品の品質管理には問題有りのようで、最近の評価は必ずしも高くないようです。ただ、カタログにはこの他に、J&R GlenDavid Glen のパイプの復刻版なども取り揃えているようで、他人と違ったパイプを所有したいというパイパーからはそれなりの注目を得ているようです。(2つの Glen の関係についてはここにとても興味深いエピソードを紹介しています。)


 さて、Dunfion のパイプでもう一つ大いに心惹かれた点は、ドローンパイプのチューニングスライドに真鍮のインナースリーブ(右写真参照)が入ることです。アイルランドの Uilleann Pipes などではごく当たり前のこの仕様、これまでハイランド・パイプで施されている例は知らなかったのですが、なんと、偶然にも過日、山根先生のところで MacDougal だったか Glen だったかのパイプにまさにそのようなメタルスリーブが入っている例を見せられて、古(いにしえ)のパイプ職人の手の込んだ造作にいたく感心させられたところでした。ですから、これは、全くの伝統的原理主義者としてのパイパー森の琴線に触れたポイントです。
 “Highland Bagpipe Makers”(Jeannie Campbell/2001)によると、このようにドローンパイプに真鍮のインナースリーブを入れるという手の込み入った手法は、 Glen MacDougal 等といった老舗メーカーで主に1880年頃から第1次世界大戦の頃までの間に行われていた仕様だということです。


 さらにもう一つ、パイパー森の心を引き付けて止まなかったのは、Dunfion のパイプは木部の表面仕上げが他のパイプではごく一般的なラッカーやニス等の塗装仕上げではなくて、オイル仕上げであることでした。曰く…、

 Each set of our pipes has a burnished oil finish,
like that found on the finest European shotgun stocks
- not the coat of lacquer or varnish you find on most other bagpipes.
Our oil finish will ensure our bagpipes stay looking beautiful for many years.

 Piping Times の宣伝に掲載されている Dunfion パイプの写真の木部が落ち着いた渋い艶をしているので、いつも「何故だろう?」と不思議に思っていたのですが、その理由がオイル仕上げだった訳ですね。
 オイル仕上げであれば、日頃から木部をオイルで拭き上げ愛でて楽しめる訳ですから願ったりかなったりです。(他のメーカーでは C.E.Kron McCullum のパイプも同様にオイル仕上げのようで、どうもごく最近のトレンドとしては、このようなナチュラル仕上げを取り入れるメーカーが増えているようです。)
 パイプのかおり第7話に書いたとおり、私は手製の木製パイプケースを同様にオイル仕上げにしています。今回も、この新しいパイプのために同じ仕様でパイプケースを製作するつもりですが、これでやっとケースと中身が同じ仕様になる訳で、一緒にオイルで拭き上げ愛でるのが今から楽しみです。

■ Angus J. MacLellan さんによる音色の熟成 ■

 でも、実はこのような外観等のこと以上に私が新しいパイプを Dunfion にオーダーすることに決めたもう一つの理由は、このパイプの音色の熟成に当たって、あの Angus J. MacLellan さんが全面的に協力しているということです。
 Angus J. は単なるダブル・ゴールドメダリストという位で、その他の一流パイパーに比べると現役時代の受賞歴はそれほど目立ったものではありませんが、ことピーブロックに関する知識と耳の良さは現代随一という評判の人物です。「私に2度ピーブロックの手ほどきをしてくれたその Angus J.McLellan さんが音の熟成を手掛けているパイプ」ということは、私が新しいパイプを選ぶにあたって最後の決定的な決め手になりました。

 Dunfion Bagpipes Henry Murdo さんあてに細かい仕様を含めてオーダーの問い合わせをした際のメールの中で私と Angus J. との関わりにも触れたところ、彼もその返事の中でAngus J.MacLellan のピーブロックに関する記憶と知識は本当に信じられない程で、彼は正に a national treasure! (国家的財産)だと思う。」と書いてきました。

 その音色については、様々なパイプの音色にとても詳しいTMさんによると「Dunfion は音色から言っても Droneの音があまり大きくなくとてもMellowですので、ソロ向きというか、まピーブロックには持ってこいではないでしょうか。」というコメントを頂きました。
 また、ボブさんのフォーラムで“Dunfion”をキーワードとして検索してみると、全部で80件近いスレッドがヒットしますが、それらを読んでみても、Dunfion Pipes のオーナーたちの非常に高い満足度が伺えます。

■ The one and only Pipes ■

 さて、ただでさえユニークな Dunfion のバグパイプですが、さらに今回、私がオーダーした組み合わせというのは、Dunfion Bagpipes でもこれまで作られたことはないものです(自らへそ曲がりだと証明?)。そして、さらにご丁寧にもドローンには私のイニシャルを掘ってもらうようにお願いしましたので、これはどう考えてもオンリーワンってことになりますよね。

 ちなみに、私が Dunfion Bagpipes Henry Murdo さん製作をお願いした仕様は次の通りです。

・No.6 Half Silver Mount Pipes.
・Silver work design is the Celtic design.
・Chalice Top Drones with Dirk Handle Carving.
(←が一番のミソ)
・Elk Hide Bag (by L&M), not Canmore bag.
・The color of velved bag cover and silk cords are dark green.
・The total length of blow pipe & blow pipe mouthpiece are about 28cm~29cm.
・My own initials on drones.

 オーダーは無事に受け付けてくれ、納期は6週間程という返事でしたから、ボブさんのフォーラムで書かれていたことから覚悟していたよりもずっと早く手に入りそうです。私としては9月の自分の誕生日に間に合えばと思ってこの時期(5月)にオーダーしたのですから…。

 さあ、この6週間のうちに新しい木製パイプケースを作らなくては…。

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