CANNTAIREACHD
- MacCrimmori's Letter - No.15
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Joseph MacDonald の復刻本1st December 1995 前回の手紙でお約束したとおり、 今回は久しぶりに真面目にピーブロックに関することを書きます。Joseph MacDonald という人物によって1760年に 書かれた "The Compleat Theory of the Scots Highland Bagpipe" と いう本の復刻版が昨年(1994年)、 The Piobaireachd Society から出版されました。今回はおよそ250年の間、非常に数奇な運命をたどってこの復刻版に至った貴重な書物のことについて紹介します。 この本の著者である Joseph MacDonald は1739年、スコッ トランドの北のはずれにある Durness という土 地の牧師の息子として生まれました。牧師の息子として高度な教育を受けたようで、14才で英語とガーリック(スコットラ ンド人は Gaelic をゲーリックとは発音しません)のみならず、ラテン語やフランス語を上手に読み書きできたということです。また、父親はガーリックの詩人であるとともに良 いシンガーだったということで、Joseph 自身も小さい頃からいろいろな楽器に親しみ、14才の頃には、フルート、オーボエ、バイオリンを巧みに演奏するだけでなく、ガーリックの詩に合わせた曲を 作曲したそうです。そして、15才になる頃にはバグパイプも上手に演奏できるようになっていたということです。 さて、若き
Joseph 青年は21才になったばかりの1760年、東インド会社の
仕事に就くために希望に胸を膨らませてカルカッタに渡りました。これは多分、当時としては超エリートコースだったのでは
ないかと思われます。ところが非情なことに、それからわずか3年後の1763年、彼はその地で悪性の熱病にかかってしま
い、わずか24年の短い生涯を終えてしまったのです。 そして、最初の出版
から実に100年以上もの時が流れた1927年、この本はインバネスのと
ある競売場で「再発見」されます。その人物はこの本の内容の素晴らしさに感激し、早速全ての原稿をタ
イプし直して(1803年版でのミスもそのままに)再版しました。そして、それ以降この本の存在はハイランド・パイプの
世界で広く知られるようになった訳です。 しかし、なによりも
現代のほとんどのパイパーがこの本のことを知るようになった最大のきっかけは(ちょうど私がそうだったように)、1948年に出版された我らが「レッドブック」"The Kilberry Book of Ceol Mor"
の中で、著者の Archibald Campbell がこの本の内容を詳しく引用し紹介したことによります。 タイトルから想像すると、この本
の内容は楽器自体についての解説のように思えるかも知れませんが、実際のところは " Compleat Theory of the Ceol Mor" と
いうタイトルこそがより適切なもので、その中身は様々なバリエイションを
中心にピーブロック演奏のポイントを事細かに解説した内容になっています。 この復刻版の楽しみ
方としては、そのような当時の楽譜や原文をながめることもさることながら、偏
執狂的分析魔ともいうべき Roderick D.Cannon
がまさに重箱の隅をつつくように細かく分析をしている解説部分や、Joseph MacDonald
の生い立ちやその当時の様子、さらにはこの本から読み取れる当時のピーブロックの状況を現在と比較をしながら解説した部分を読むのも非常に興味深いことで
す。 この本の存在価値
というのは、簡単には計り知れないものがありますが、なによりも貴重なことはこの本がハイランド・パイプとりわけピーブロックについて書かれた最初の書物であるということです。そ
して、さらにそこに書かれているのがまさにピーブロックの最盛期の姿であ
るということにもさらに大きな意義があるといえます。 さらにもう一つ忘れ
てならないのは、その頃のピーブロックの伝承はカンタラックによる口承だ
けで行われていたので、普通のパイパーはこの本に書か
れているような楽譜は一切使っていなかったということ
です。そのことを考えると、その当時のピーブロックの
様子がこのような形で紙の上の記録として残されているという事自体がある意味では非常に貴重なことだと言えるのです。 さて、このような本を前にして当時のピーブロックの 息吹を感じなが ら鑑賞する今回の曲は "Lament for Donald of Laggan" です。なぜかというと、この曲には実は先ほど紹 介した Clunluath より長い装飾音、 Clunluath Breabach (クルンルアー・ブレバックと発音するのでしょうか?)が使われているのです。ただし、当時と違って現代の表記では普通の Clunluath ともう一つの装飾音群という風に分解して表記されますし、演奏自体もそのようなタイミングで演奏します。 この
曲は Seumas MacNeill が "one of the
most beautifull piobaireachd we have" というようになん
とも言えないほどに美しいメロディをもった曲です。この曲を捧げられたのは Donald of Laggan(1543〜1645)で、その
死に際して MacCrimmon一派の中で最高の作曲家といわれる
Patrick Mor MacCrimmon(Patrick Og
の父親)によって作曲されました。Donald of Laggan
の娘である Iseabal Mhor が
Dunveganの Rory Mor MacLeod と結婚していた関係で、言うなれば Rory Mor
が義父の死に際して、当代最高のお抱えパイパーに Lament を作曲させたという訳です。 この名曲の唯一の欠
点は「短すぎること」であると言われています。 そういえば、最近、
私のピーブロックの好みもますます偏屈になってきました。以前は「静かなウルラールから始まってバリエイションでぐーん
と盛り上がってクライマックスを迎え、そしてまた静かなウルラールに戻る」というような定番パターンのピーブロックが何
よりも好きでしたが、最近はこの "Lament for Donald
of Laggan" のようにバリエイションが複雑でないものや、バリエイションがウルラールと
ほとんど変わらず、これといったクライマックスがなく最初から最後までほぼ同じテンポで通して演奏されるような曲が好み
になってきました。具体的に言えば "The Old Woman's
Lallaby" とか "Lament for
Duncan MacRae of Kintail" "Rory Mor MacLeod
Lament" といったような曲です。 Yoshifumick Og MacCrimmori |
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