ハイランド・パイプに関するお話「パイプのかおり」付録

The Desperate Battle of the Birds

 現代に伝えられているピーブロックはおよそ300曲以上ありますが、一番多いのがLament〜つまりは誰某の死を悼んだ曲。そして、その次に多いのが、Salute〜つまりは誰某の誕生だとか偉業を讃えた曲。大体これでおよそ70%位でしょうか。その他に、Battle of〜なんていって、クラン同士のある戦いのことを伝える曲、Gathering of〜といってそれぞれのクランの定番ナンバーなんかもあります。あるいは Nameless なんてのも有ります。そういう場合には例えば“Hiharin Dro O Dro”というように便宜的に最初の一小節のカンタラックをそのまま曲名にしてしまいます。

 それらの曲はテーマはなんであれスコットランドの風土から生まれてきたものなので、スコットランドの自然風景にはすごく馴染む曲調なんですが、実は直接的に自然の情景をテーマとして描いているといわれるピーブロックはあまり聞いたことがありません。そういう意味から言うと、この“The Desperate Battle of the Birds”はその特殊な例の一つです。

 この曲は“The Birds' Fight”という名で呼ばれることもあり、描かれてのは次のような情景です。

 「ある静かな夏の日、鳥たちが2羽3羽とさえずりながら集まり始める。そして、鳥たちが増えるに従って静かな歌声から徐々に歌合戦になり、ついには凄まじい(鳴き声の)闘いへと展開していく。そして、突然何かに驚いたかのように全ての鳥が一瞬にして飛び去り、再び平和な夏の日の静寂が訪れる。」

 私の手許にはカンタラックも含めて全部で9つの音源がありますが、大体演奏時間は12分程です。

 楽譜は次のとおりです。(score by bugpiper)

 

 実はピーブロックの構造の説明をする例としてはこの曲はあまり適切ではありません。
 というのも、この曲はピーブロックとしては例外的に、バリエイションのテーマノートをグラウンドから取り出していません。さらに、ウルラールとバリエイションでそれぞれパターンが異なっています。

 Kilberry の楽譜の左上にある Grd 8,8. Vars.6,6,4. というのがそのパターンを示している記号で、ウルラールが「8小節+8小節」、バリエイションが「6小節+6小節+4小節」という構造になっている、という意味です。

 ちなみに“Lament for the Children”の場合はただ、8:,8,8. と書いてありますが、これは、ウルラールもバリエイションも両方とも、「8小節の繰り返し+8小節+8小節」というパターンだという意味です。

 バリエイションのパターンは左のようになってます。
 この6,6,4という骨組みはピーブロックでは最も一般的なパターンです。同じ内容の小節毎に番号をふりながら見ていくと、番号のような並びになります。
 そして、さらに、1をA、2をB、3-1をC、4-5をDと置き換えると下に示したアルファベットの並びのようなパターンが見えてきます。Dのパターンが各段毎の締めのパターンって言う訳です。
 このパターンはピーブロックの中で一番ポピュラーなパターンです。6,6,4であれば殆どがこのパターンだと思って間違いないでしょう。

 そして、このパターンにこのような装飾音が付けられて演奏が続いていくのです。
 楽譜の方では6の装飾音以降は「以下、同様」って感じで全体は省略されてしまっていますが、要はパターンに添ってやれってことなのです。
 7は Taorluath(タールアー)で、ある音の後に4つの決められた音を入れ low A で終る装飾音。全てのテーマノートに続いて演奏するので、楽譜ではそのテーマノートの下にTの字で表記されています。
 9は Crunluath(クルンルアー)。ある音の後に7つの決められた音を入れ E で終る装飾音。同様にCの字で表記されています。
 10は Crunluath a-mach(クルンルアー・ア・マッハ)。Crunluath とはタイミングを逆に演奏する装飾音。B、C、D のみで演奏され、その他では通常のクルンルアーを演奏することにより曲調にダイナミックな変化を生じさせます。装飾音の数は8つになり、現在、演奏される装飾音の中では最も込み入ったもので(その昔は18個も装飾音を入れるのもあったのですが、その話しはまたの機会に…。)、最後のバリエイションとして使われます。B、C、D 各々でちょっとづつ指使いが異なります。楽譜では C の字を逆さにするなどして表記します。
 8は10と同じ考えで Taorluath の逆タイミングの Taorluath-a-mach(タールアー・ア・マッハ)ですが、実はこの装飾音が演奏されるのはどちらかと言うと稀で、私の手許にある音源の中でこの曲以外でこの装飾音が演奏されている例は、私の人生最初のピーブロックである John MacLellan というパイパーの演奏する“The MacGregor's Salute”、パイプのかおり第10話で紹介している“The Vaunting”、そして、“The Battle of Waternish”という曲の計3曲だけです。

 さて、以上はシェーマスの“PIOBAIREACH”からの引用ですが、Canntaireachd No.11にも話題の出て来る、そして前回の話のプラクティス・ボックスに常備していると紹介した A.J.Haddow の“The Histry and Stracture of Ceol Mor”(1982)という本は、題名のとおりピーブロックソサエティーの楽譜集Vol.1〜Vol.13までのピーブロック194曲(この楽譜集は現在ではVol.15まで出版されています。)についての構造パターンを一覧表にするとともに、その内およそ半数の曲についてはその曲の歴史背景について記述しています。さらに、およそ2/3の曲については一覧表に掲げられたパターンの中身について詳しく解析する、という具合に非常にち密な研究成果が集大成されたすごい本なのです。

 ちなみに、この本では Desperate Battle の構造はこのように表記されています。
 そして、一覧表を最後まで眺めてみると、この曲のようにウルラールとバリエイションのパターンが異なっているのはこの他にはあと1曲しかありませんでした。

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