ハイランド・パイプに関するお話「パイプのかおり」

第25話(2006/8)

Piob-Rocker - Stuart Cassells

 パイプのかおり第15話に書いたとおり、パイパー森がピーブロック以外にごくたま〜に聴くことがあるハイランド・パイプ・ミュージックというのは、簡単に言ってしまうと「ハイランド・パイプがリード楽器となったトラッド・バンド・フレイバー」な演奏です。
 しかし、パイパー森は元を正せば単なるミーハーなロック・フリークですから、もし「ハイランド・パイプがリード楽器となったロック・バンド・フレイバー」なパイプミュージックがあるとしたら、それはまた大いに興味をそそられるところです。
 つい最近、とうとう正にそんなパイパー森好みのパイプミュージックが登場しました。


 Stuart Cassells BBC Radio Scotland “2005 Young Traditional Musician of the Year ”に輝いた今をときめく若手パイパー(詳しくは CD ジャケットをクリックして彼のオフィシャルサイトへ…)。その勢いに乗ってつい先頃リリースされたのがこの鮮烈なデビュー・アルバム“Blown Away”(FOOTSTOPIN' FSR1733)です。
 あくまでも正統的に習得した高度な演奏技巧をベースにしながらも、かといって伝統のスタイルに厳格に捕われすぎることなく、伝統的な曲やオリジナルなパイプ・チューンを他楽器とのアンサンブルによる現代的な解釈の下に新鮮なパイプミュージックとして表現する。…という意味では言うなれば、Fred Morrison Gordon Duncan などの正統な後継者といったところです。(まあ、今やスコットランドや北米にはこのような若手パイパーが、数え切れない程いることは想像して余りありますが…。)


 当人もこれらの2人については何よりもリスペクトの対象としているようで、このアルバムもいきなり Fred Morrison “The Broken Chanter”1曲目を飾る Alasdar's Reel (もちろん F.Morrison 作)で幕を開けます。
 オリジナルの演奏も曲の歯切れの良さに加え、ギターやブズーキ、シンセサイザーで彩られたアレンジが当時としては衝撃的にカッコ良かったのですが、Cassells Band のバージョンは、ギター、ベース、ドラムスにピアノ、ハモンドオルガンなどを加えた完全なロック・コンボ・スタイルでいきなり爆発。そして、オリジナルよりもさらに数段アップ・テンポなノリの演奏で一気に駆け抜けます。

 続く2曲目の Jig のセットも途中でピアノやベースのソロを交えながら、チャンターのハイ・トーンが正に(リード・ギターならぬ)リード・パイプという感じで縦横に暴れまくると言う感じです。

 かと思うと、4曲目では、一転して愛しいガールフレンドの名前を冠した自作のスローエアーを、他のメンバーの演奏する Low Whistle に合わせて Fred Morrison のプロデュースによる Border Pipes を手にしてしんみりと聴かせます。

 6曲目のアンサンブルでは、アイリッシュ・ミュージックではお馴染みの Bodhran(バウロン)が大活躍。途中ではバウロン・ソロまで演じられます。

 7曲目として、このアルバム唯一のヴォーカルナンバーとして取り上げられたのは、1950年代からのイギリス伝承音楽リバイバル・ムーブメントの中心人物であるスコティッシュ・トラッドの巨匠、あの Ewan MacColl 作になる“The Terror Time”という曲です。
 前半部をギター&ブズーキ担当でもあるバンド・メンバーが、自身のギターを伴奏に典型的なスコッチ・シンギングの地声でひとしきり朗々と唱い上げた後、「ブ〜ン」とドローン・ノートがバックに流れ始め、続いてチャンターのハイノートがシンガーとシンクロしてメロディーラインをなぞります。そして、最後はパイプがワンフレーズ演奏して締めくくる。
 う〜ん、これまで聴いて来た数多の伴奏付きスコティッシュ・シンギングの中でも最高にかっこいいアレンジだゾ〜ッ!(もちろん、トラッド原理主義的に言えば、最も感動させられるのは何よりも無伴奏シンギングに限りますが…。)


 しかし、これで満足してはいけません。なんといってもこのアルバムの中でも特別にイカシタ演奏の極めつけは8曲目の“The Hills of Argyll”という曲です。George McIntyre という人物が第2次世界大戦の際にドイツ軍の捕虜として捕われていた監獄の中から、故郷のスコットランドを想いつつ望郷の念を込めて作詞・作曲した曲とのこと。

 まず、ピアノとギターのアコースティックなイントロに続いて、ハイランド・パイプがその美しいメロディーを通して演奏します。ここでは歌は唱われませんが、ライナーに書かれているその歌詩の一節を読みつつそのメロディーラインを味わえば、「蛍の光」の例を出すまでもなく日本人のメンタリティに絶妙にマッチする典型的なスコティッシュ・メロディーの絶えなる美しさにうっとり聴き入ってしまいます。
 そこで一旦パイプが鳴りを潜め、ギターとピアノが交代にリードを取って静々とメロディーをなぞります。
 そ…、そして、つ…、次のフレーズに移る瞬間、コンボのベース&ドラムスが「ジャンジャカジャ〜ン!」と大音量でリズムを刻みはじめるとともに再びハイランド・パイプのチャンターのハイノートがメロディーを高らかに奏で始めるのです。
 ロック・イディオムのリズムセクションに乗せてひとしきりメロディーを演奏した後、再びパイプが鳴りを潜め、今度は「ギュワ〜ン」とエレクトリック・ギターにバトンタッチ。途中からオーバーダブしたもう一台のギターも加わってトゥィン・ギター・ノートによるギター・ソロが終わると、今度はなんとロック・リズム・セクションはそのままに、Cassells が率いるパイプバンド“The Red Hot Chilli Pipers”( !? こんなバンド名のパクリってもめ事にならんだろか?)が盛大にメロディーを奏でて演奏はクライマックスを迎えます。
 そして、最後はしんみりとソロパイプが最後のワンフレーズを演奏して終了。

 う〜ん、いや〜マイッタ…。なんともカッコエエゾ〜!

 Piob-Rocker たるパイパー森はこのような演奏には完璧にハマってしまいます。

 …で、他の超スピードの曲はどんなに頑張っても到底真似できそうにありせんが、この印象的なメロディーはスローマーチ程度なので、早速コピーして一人で悦に入って Thechochanter で演奏しまくっています。いずれは Techochanter をアンプに繋げ、息子にストラトキャスターでギターパートを奏らせて、Cassells Band の演奏の完コピを目指そうかと思っています。マジで…? 


 9曲目は、グラスゴー国際空港で手荷物が出て来る間に当人から教わったという Fred Morrison 作のダンスチューンを筆頭にしたダンス・チューン・セット。そして続いて、ジャジーなピアノに彩られたアップテンポなロックン・リール・メドレーを経て、アルバムの最後を飾るのは彼自身が「最も大きな影響を受けた」と書いている Gordon Duncan を偲んで“Just for Gordon”と名付けられたセットです。

 5曲から成るこのセットの演奏時間はなんと14分51秒とクレジットされていますが、実はこれにはちょっとした趣向が凝らしてあります。
 つまり、前半のギンギンにハードなロックン・パイプ・チューン・メドレーが6分40秒のところで一旦終わった後2分30秒余りの無音状態が続くのです。「おやっ? もう終わったのかな?」と思っていると、9分13秒のところで、突然マイクを「トントン」と叩く音とともに「ハロー、トントン、まだ居るかい?」と言った風に Stuart Cassells 自身によるナレイションが始まるのです。「どう? 僕のデビュー・アルバム気に入ってくれたかい? 気に入ったなら友達にも薦めてくれよな。そして、次のアルバムも期待していてくれ。」ってな具合。ジャケット写真から伺えるワルガキ風の風体のとおりに実にふてぶてしい語り口で、ボーナストラックとして収められている BBC のスタジオでの“2005 Young Traditional Musician of the Year ”を受賞した際のライブテイクの紹介を経て、最後は「次のアルバムでまた会おうぜ!」と余裕の締めくくり。

 そして、セットの後半のスタジオライブは、のっけからの盛大な手拍子に乗せて文字どおりロックバンドさながらにド派手かつギンギンに盛り上がり、最後の最後に Gordon Duncan 作になる“The High Drive”という曲を「悲しみをぶっ飛ばせ!」とばかりに、Duncan のオリジナル演奏の5割増しのハイスピードで、まさに《爆奏》してアルバムを締めくくるのです。


 The Bothy BandDonal Lunny は、僚友の超絶技巧イリアン・パイパー Paddy Keenan 「イリアン・パイプス界のジミ・ヘンドリックス」と表現しました。一方、Stuart Cassells のデビュー・アルバムのライナーノートに言葉を寄せているあの フィル・コリンズは、その一文の中で次の様に書いています。

 “Straightaway, I must say that I am one of those people who find the sound of Bagpipes exciting, invigorating and inspiring. So when the CD starts there is an emotion, energy. This recurs time after time with memories of the early Who, believe it or not. The pipes are like the open string of Rickenbacker of Pete Townshend. Not much between them”


 Stuart Cassells のこの衝撃的なデビューアルバムは見事な出来映えの作品で“Piob-Rocker”たるパイパー森の心を完全に捉えてしまいました。確かに Piob- Rock と表現しましたが、その実、彼の演奏はただ単に勢いに乗せて荒々しく演奏しているというのではなく、あの Donald MacPherson も含めて著名なパイパーから正統的に伝習された確かなテクニックによるその演奏からは、パイプを完全にコントロールしているという余裕が感じられ、聴き手に安心感を感じさせます。
 次のアルバムでは全編 piob-rock ではなくて、2人の先輩のアルバムのように piobaireachd も披露してくれると、それはそれできっと聴き応えがあると思うのですが…。

 少々悔しい感じもしますが、彼がふてぶてしく宣言しているセカンドアルバムのリリースが今から楽しみで仕方ありません。

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