ハイランド・パイプに関するお話「パイプのかおり」 |
第26話(2007/1) "The MacGregor's Salute" の表現について ピーブロックを聴く上での楽しみの一つは、一つの曲に複数のパイパーの音源がある場合に、各々のパイパーによる表現の微妙なニュアンスの違いを味わうことです。 長年に渡り師匠から弟子に厳格に伝承されて来たとは言え、ライト・ミュージックとは違って、ピーブロックという音楽形式は「決まりきったテンポやリズムから解放されて、自分なりにその曲のイメージを持ち、自由に節回しを楽しむことができる」楽曲なので、結果として様々な表現があり得るのです。私のコレクションにある“Lament for the Children”の音源についてもその演奏時間が15分そこそこから19分以上までと、25%以上も差異があるのはその端的な例でしょう。 しかし、実際のところは連綿と続く様々なコンペティションの弊害の一つとして、一流のパイパーたちの演奏は高度に平準化されてしまっているので、その違い はごく些細な点に留まります。ですから、その差異が明らかになりやすいのは、先ほどの例の通り、せいぜいテンポの違い位であるのが現実です。 しかし、最近はそんな風潮に異議を唱える動きも出始めていて、代表的な例としては、Barnaby Brown や Allan MacDonald と いった人たちが、現在では聴かれなくなった昔(いにしえ)の解釈で曲を演奏する試みをしています。そのような演奏では、日頃聴いている演奏とは全く違った 表現がされていて、ある意味ではいつも聴いている曲とは全く違った別の曲として鑑賞することが出来る程に、新鮮な印象を受けることがあります そのような聴き比べの妙は、とにもかくにも実際に音源を聴かなくては伝わりませんので、このようなサイトを通じてその面白さを共有することはなかなか難しいところです。 その曲は、奇しくも私が 1973年1月16日にNHKのラジオ番組で生まれて初めて聴いたピーブロック、“The MacGregor's Salute”です。2つの音源は Jim McGillivray の演奏 とAndrew Douglas の演奏 。Jim McGillivray は Lismor レーベルの The Word's Greatest Pipers Series Vol.10 の自身のアルバムの中でもこの曲を演奏しているので、実は彼のこの曲の演奏音源はこれで2つ目になります。 さて、両方をダウンロードしたら、早速この2人の演奏を続けて聴き比べてみて下さい。 実は、ピーブロックに於いては左の様な Ggracenoteーbirlという組み合わせは全く使われません。その代わり定番中の定番として頻繁にでてくるのは右の様な Dgracenote-birl(Hiharin)という組み合わせです。 そのような中にあって、この曲のこの部分は Ggracenote-LowA-LowG-LowA-LowG-LowA という、音列からいうと正に Ggracenoteーbirl と同じ音の並びが示されています。 とは言え、疑問に思いつつもこれまでは私も Jim MacGillivray やJohn MacLellan のように、まるで birl のように演奏していましたが、今回、Andrew Douglas の演奏を聴いて「これこそ、この楽譜が示しているとおりの演奏ではないだろうか。」と思い至りました。 そこで、早速この表現にトライしてみました。 でも、なんとか習得してそのようにして演奏してみると、この音列が頻繁に出て来るウルラールとそれに2つのバリエイションの味わいが全く様変わりしてしまう程の劇的な効果があります。なんて言うんでしょう、のったりした感じになりますね。 さて、皆さんはどちらの演奏スタイルがお好みでしょうか? |
|| Japanese Index || Theme Index || |