ハ イランド・パイプに関するお話「パ イプのかおり」 |
第17話(2004/3 & 2011/12) “CEOL SEAN”の復刻楽譜CD "The Kilberry Book of Ceol Mor" の
前 文には18〜19世紀に書かれたピーブロックの楽譜集や文献について解説している部分があります。Angus MacArthur's MS(1971)、Donald
MacDonald's Book(1822)、Angus MacKay's
Book(1838)、General Thomason's Ceol Mor(1900) な
どなど…。 それらの中でも最も古いものが、Joseph MacDonald によって 1760年に書かれた "The Compleat Theory of the Scots Highland Bagpipe" ですが、Canntaireachd No.15で紹介したとおり、この本は ちょうど1994年に克明な解説付きで復刻出版され、今では誰でもこの貴重な書物を所有することができるようになり ました。 しかし、これ以外の楽譜集や文献については、スコットランドの博物館
等に出向いて現物を目にする以外に「それがどんなものであるか?」ということを知る術は無いように思えました。ま
た、たとえそれがかなったとしても、その場で実際にそれらを目の前に並べてひも解き、それぞれの楽譜に目を通してそ
れぞれのセッテイングの違いなどを実際に確認する、なんてことは到底叶うべく事では有り得ません。 ■ "Bagpipe Music Books on CD" ■ ところ
が、ところが、な、なんということでしょう。そんなスコットランド人の悠長なプロジェクトが実現するよりも先に、現代のテクノロジーを使ってこれらの古い楽譜をまとめて蘇ら
せ、それらを求める人たちにあまねく提供することをビ
ジネスとするアメリカ人が現れたのです。 詳細についてはイリノイ州に本拠を置くこの会社のサイトで来歴等を読
んで頂きたいと思いますが、かいつまんで書くと、この "CEOL
SEAN" では、メリーランド州にある "The Bagpipe Music Museum" の協力の下、そこにコレクションされている冒頭で触れたような様々な古い楽譜集を
PDFファイル(と Word ファイル)にしたものをCDのフォームにして販売しているのです。 今回、 私は "CEOL SEAN" のオンライン・カタログに掲載されている24種類の楽譜集の中から、(当然です が)ピーブロックの楽譜集5点を購入しました。特に、永年「一目見てみたい!」と憧れていた "Angus MacKay's Book(1838)" と、"General Thomason's Ceol Mor(1900)"、そして、Kilberry Book の前文にはその名は出てきませんが、やはりあちこちで引用されることの多い "David Glen's Ancient Piobaireachd (1880)" の3点には特にワクワクさせられました。 この中で一番古く、かつ有名な "Angus MacKay's Book(1838)" は、61曲のピーブロックが載っているだけでなく、それぞれの曲の背景や伝説についての記述、
The Highland Society of London
のコンペティションの歴史、MacCrimmon やその他の有名なパイパーの家系に関する解説
などが納められています。 それらの文章は非常に臨場感豊かに生々しく記述さ
れているので、新たに入力された鮮明な文字のPDFファイルでそれらを読んでいると、自分自身が1838年にトリップしてしまって、まるでパイピング雑誌のつい最近の
ゴシップ記事を読んでいるかのような錯覚に陥ってしまいます。 General C.S. Thomason による "Ceol Mor(1900)" は全 27冊に339曲!(同一曲のバージョンの違いも含む)の楽譜が納められている膨大な楽譜集で、The Piobaireachd Society Books のベースとなったコレクションです。最初の第1冊目は20ページ以上に渡って小さな文字で解説だけが書かれたものなので、それだけでもかなり読みごたえが ありそう。ただし、こちらは当時の印刷ページそのままなので、活字も不鮮明で小さくてかなり疲れそうですが…。 "David Glen's Ancient Piobaireachd" は 1833年から1978年までおよそ150年の長きに渡って名声を維持し続けたエジンバラの名高いパイプメイカー“David Glen”によるもの。 “David Glen”は、1840年頃から1900年代の初頭まで、パイプメイキングだけでなく、楽譜
集や教則本などを数多く出版しています。 Historic, Biographic and Legendary Notes to the Tunes by "FIONN" とタイトルされたそれぞれの曲の背景を解説した文章は、「"FIONN" には〜〜こう書いてある。」という具合に、ことあるごとに引用され ていて、ピーブロック研究に於ける正にバイブル的存在です。 ■ 楽譜も価格破壊? ■ さて、これらの歴史的にも非常に価値のある、そして、ものによっては
多くの分冊になっている楽譜集が、まるのまま各々たった1枚のCDにすっかり納められて、我々のような個人愛好家が
容易に手にすることができるということ自体が何とも驚くべきことですが、さらに驚かされるのは、それらの価格が信じられない程に安価であるということです。 115曲余りが収録されたハードカバーの "The Kilberry Book of Ceol Mor" が$43.75なのは まだ しも、1冊に12、3曲しか入っていないあのペナペナの "The Piobaireachd Society Books" が1冊当たり$17.50(×全15冊=$262.5)で売ら れていることを考えると、この "CEOL SEAN" による復刻楽譜集の価格はCDというデジタル媒体が故に成し得た《奇跡》以外のなにものでもありません。 それにしても、「印刷・製本のコストが掛かってないからといっても、 一体どうしてそんなに安価に供給できるのでしょうか?」 その理由はどうやら「著作権」にありそ
うです。 まあ、多分そんな理由でこれ程にも安価な値段が設定できたのだと想像
されます。これらの楽譜集の価値からして、ピーブロック愛好家なら数倍、いや10倍の価格が提示されたとしても多分
のどから手を出すでしょうから、あこぎな商売をしようとすればできるとは思うのですが、Jim Coldren にしても "CEOL
SEAN" の Steve Scaife
にしても非常に良心的な人たちだと思います。同じバグパイプ音楽愛好家同志の心意気、そして連帯感のなせる技なのでしょう。 ■ デジタル・データの使い心地は別次元 ■ それぞれの中身の素晴らしさとその意味の大きさは甚大で、今のところ それらを十分に味わい尽くすまでに到底及んでいませんが、ページをめくり(?)始めて直ぐに実感するのはデジタル・データならではの使い勝手の良さです。これもまた実に感動ものです。 PDFファイルですから、最新の Adobe Reader
を使ってページレイアウトを見ながら閲覧すればどのページにもアクセス自在ですし、もちろん印刷も可。また、それぞれのインデックスページの曲名のリスト
には譜面や解説文へのリンクが張られているので、別々のファイルに入っている譜面も自動的に開いてくれてダイレクト
にそのページに飛んで行きます。もちろん、そこからインデックスページに戻るのも自在。27分冊の C.S. Thomason
の楽譜集を前にして求める曲の譜面を探しページを開く手間
を思い浮かべるても、と ても比較にならない程のイージーさです。 さらに私は、全ての楽譜CDの内容をそっくりそのまま iMac
本体の一つのフォルダにコピーし、そこへのショートカットをデスクトップに置いているので、例えば iTune
であるピーブロックを聴いていてその楽譜を見たいと思ったときに、目的とする譜面を画面に呼び出すまでに、ものの30秒も掛かりません。 私は、早速 "CEOL
SEAN" の Steve Scaife さんにメールをを書いてこの偉業を褒めたたえました。 I have an index of Piobaireachd
tunes books that I developed as part of Ceol Sean's CD
of G.F. Ross' "MacCrimmon and Other Piobaireachd". The
sources include the following: ついでにこのリストを送ってくれるように頼みました。もちろん、彼は
直
ぐに送ってくれましたが、それはそれは実に素晴らしく便利なインデックスです。ダウンロードして皆さんもぜひお手元
にどうぞ。Piobaireachd
Index(PDFファイル) 聞く
(正確には「読む」)ところによると、現在、ピーブロック・ソサエティーでは10数年ぶりに "The Piobaireachd Society Books" No.16のリリースを予定しているようです。また、既存の楽譜集に納められてい
るそれぞれの曲のセッティングの見直しも作業中とのこと。いずれはこの楽譜集も、順次新しいセッティングのものに更
新されていくのでしょうけど、その際にはぜひともこの“CEOL
SEAN ”を見習って、CD(デジタルデータ)での
供給もして欲しいものです。そして、ついでに "The Kilberry Book of Ceol Mor" なども…。 これら
の古い楽譜集をパラパラ眺めているといろいろと興味深いことに気が付きます。中でも、最大の発見は "David Glen's Ancient
Piobaireachd (1880)" で目に付いたある指示です。それは、殆どの曲で
Clunluath(クルンルアー)バリエイションに入る前に書かれている "Repeat the Urlar" という指示。 そうです、このサイトのどこかでも触れていますが(どこだかは忘れ
た)、以前はピーブロックの演奏において
Urlar(ウルラール)は最初と最後だけではなくて曲の途中でもう一度演奏するのがしきたりだったのです。 さて、実は私も実際にこのような演奏スタイルが一体いつ頃まで行われていたのか? ということについては、これまで殆ど知識がありま せんでした。しかし、今回、1880年にリリースされたこの "David Glen's Ancient Piobaireachd" に確かに殆どの曲でそのような指示が譜面に記されているのを確 認できたことによって、19世紀末当時にはそのような演奏スタイルがまだまだ一般的であったということが確認できま した。 さ〜て、そうなると俄然、そのような演奏スタイルに挑戦してみたくなるのが
ピーブロックフェチの人情(?)ってもの。実は、このような演奏スタイルについてボブさんのピーブロック・
フォーラムの中で 2003年8月に "Playing the ground during the
tune" というトピが立ち、それを読んだこともこの演奏スタイルを試してみようと
思う気持ちがさらに高まった理由でした。 …で、早速試してみました。それも、私のレパートリーで最も長い "Lament for the Children" で…。 う〜ん、強烈! 先ほどのトピで Alasdair McAndrew
さんも書いているように、それなりに盛り上がる
Taorluath(タールアー)の後で一旦ウルラールに戻って平常心を取り戻した後、いきなり
Crunluath(クルンルアー)の激しい盛り上がりに入ると、彼が書いているように正に「尋常ではないパワーと興奮が炸裂する!"〜the
crunluath burst out with extraordinary power and
excitement. "」ということを実感しま
す。 いや〜、ピーブロックってほ〜んとに楽しいですね〜! 2004年3月にこの記事を書いた際、この事業を「ビジネス」として紹介しましたが、その実、その内容をよく咀嚼してもらえれば分かるとおり、 Steve Scaife さんがこのプロジェク トを運営しているその本当の心は、決してビジネス心からでは無いという事は誰もが直ぐに理解できるでしょう。余程コアな ハイランド・パイプ音楽ファンのためだけにあるようなこのプロジェクト、低廉な CD の料金は多分に実費と手間と送料とで消えてしまうことは明白です。 そんな彼は、2011年に名実ともにビジネスの側面を捨て去りました。 この変更に際して当サイトの URL が変更になり記事の最初に紹介した文字とバナーのリンク先は既にアクセス不能になっています。新しいサイトへは次のバナーからリンクしていますので詳しく はサイトの説明をじっくりお読み下さい。
About our new focus Ceol Sean was founded on the belief that
there is a vast body of 'lost or forgotten' pipe
music from the first half of the twentieth century
and before that would benefit the piping community
if only it could be made easily available. In 2000,
we began selling out-of-print collections on CD as a
way of making this music available. Every
piobaireachd devotee around the world owe to you so
much, |
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