ハ イランド・パイプに関するお話「パ イプのかおり」

第16話(2004/1)

Lament for The Laird of Anapool

 2004年に入って最初に届いたパイピング・タイムスによると、カナダ人のパイパー Jack Lee が 2003年の Glenfiddich Championship において、Iain Dall MacKay による "Lament for The Laird of Anapool" を 演奏し、史上初めて生粋のスコット ランド人以 外のパイパーとしてチャンピオンになったとのことです。
 2003年、TMさんが送ってくれたビデオに彼がこの曲を《完全に行っ ちまった》風情で演奏している様子が映ってましたが、私が持っているもう一つの Bill Livingstone の演奏(The World 's Greatest Pipers Vol.9)と比較しても、一層情緒的に表現しているその演奏は非常に印象的でした。あの演奏で、とうとう偉業達成というのも十分に頷けます。
 この時の状況が ボブさんのピーブロック・ フォーラム で克明に描写 されています。一読の価値あり…。

 私はこの曲は Iain Dall の作品の中でもあの "Lament for Patrick Og MacCrimmon" と並ぶ傑作だと思います。しか し、悲しいかな実際にはそれほどポピュラーではないため、残念ながら例の赤本 "Kilberry Book of Ceol Mor" に は入っていません。…で、Piobaireachd Society Book 第9巻P276にあるのが右の楽譜です。

 私は以前、Bill Livingstone の演 奏を聴いて「良い曲だな〜」と思い、一度なぞったことがあるのですが、あまりの難しさにそれっきりになっていました。こ れを機会にもう一度トライしようと思った次第。

 う〜ん、いや〜、トホホ…。
 Iain Dall って人は何でこんな難しい装飾音 の組み合わせをするのでしょう。例えようも無く美しい旋律を表現する代償にとてつも無く難しい。それも、いきなり出だし の2小節が…、そして、さらにそれを2回繰り返すときている。

 ちなみにウルラール(↑の楽譜)の最初の2小節の音を書き出してみると次のようになります。

 《HiA 装飾音HiGーEDGDED装飾音HiG(Patrick Og の3小節目にも出てくる Iain Dall お得意の CHEDARI(chay dareeと発音))ーHiAーDーHiA装飾音HiGーDストライクーHiGーDストライクーHiGーHiA装飾 音HiG》

 つま り、特に超曲者の CHEDARI《EDGDED装飾音HiG》>→ を含めてこの2小節×2=4小節をなんと左手の指だけ で演奏するのです。
 そして、実はそれに続く2小節も一度出てくるCを除けば全て左手の指だけ…。
(左手といってもつまりはトップハンドということで、Iain Dall は左利きだったので、彼にとっては右手ですが…。)

 私は“Lament for Patrick Og MacCrimmon”のウルラール表現上の要の一つでもあるこの CHEDARI《EDGDED装飾音HiG》を会得したくて、回 り道をして同じ装飾音が出てくる "Lament for MacSwan of Roaig" をそれなりに習得したつもりですが、この曲のように、前後の 音があまりにも左手ばかりだと、同じ装飾音がさらに難しく感じられます。

 そしてさらに、これに続く小節には例の key がGのラメントによく出てくる LowG から HiG に一気に跳ぶ EMBARI (the throws to HiG)は出てくるし、最後の小節に出てくるこの装飾音→も難しい。この装飾音は "The Big Spree" "Ronald MacDonald of Morar's Lament" など他のピーブロックでも時々出てきますが、いつもなかなか上手 く決まらない! あ〜あ…。


 "Lament for the Chidren" を 始めとする多くの傑作を残した、MacCrimmon 一 族の中でも最高のコンポーザーと言われる Patrick Mor MacCrimmon もトップハンドの音(=高音域)を好んだ人ですが、装飾音の組み合わせの難 易度と言うことから言うと Iain Dall ほどで はありません。
  "Patrick Og" にしても、この曲にし ても、Iain Dall MacKay の曲の難易度 はとにかく、他の曲とは一線を画しています。同時にそれらは 例えようも無く美しい…


※ この曲に関する関連記事 その1⇒そ の2⇒その3⇒

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