ハ イランド・パイプに関するお話「パイプのかおり」

第28話(2007/9)

Allan MacDonald の "Dastirum"

 
 非常に奇特なあの Ken Eller さんがオリジナル音源を惜し気も無く次々と提供してくれる "The Captain's Corner" を筆 頭に、週替わりのプログラムの中でほぼ毎週貴重なピーブロック音源がゲットできる BBC Radio Scotland の "Pipeline"、そして、月替わりのプ ログラムに必ず1つはピーブロック音源が入っている "CoP Radio" など、この1、2年、ピーブロック の音源をオンラ インでゲットできる機会が飛躍的に増えるに従い、CD フォームのアルバムを買う意欲が徐々に薄れています。
 ピーブロックが1曲だけ入っているアルバムで未購入のものがまだ数枚あるので すが、それらの曲はどれも既に他の音源を 持っている曲ばかりなので、以前のように「世 に出回ってい るピーブロック音源は何が何でも一つ残らずゲットするんだ〜っ!」と言う程の熱意は失せました。

 しかし、そうは言っても全曲ピーブロックというアルバムについては話 は全く別。躊躇すること無く「即購入!」です。


 実はここしばらく、そのようなアルバムのリリースが少なかったのです が、夏前に例のマスターズの Vol.9 がリリースされているので、なにかのついでにいずれ CoP のオンラインショップからでも入手しようと思っていました。

 ところが、先日届いた最新号の "Piping Today" のアルバム・レビューのコーナーに、このマスターズのアルバムと並んで Allan MacDonald の "Dastirum" のレビューが載っていまし た。また、6月の“Pipeline”ではこのアルバムからの音源が2週続けてオンエアされ たり、また、同じ頃にボブさ んのフォーラムでもこのアルバムについてのトピが賑わっていました。

 実は、このアルバムが、あの Barnaby Brown の "Siubhal" レーベルからリリースのアナウンスされたのはもうかなり以前のこと。挙げ句の果てにちょうど一年前の6月号の "Piping Today" では、「もう間もなくリリース!」ということで、当人へのインタビューやアルバム のライナーノーツも引用した記事が載っていました。

 ところが、現実的には例によっていつもの Barnaby Brown ペースで(前作である Donald MacPherson“Living Legend”の 場合はアナウンスから実際のリリースまでには約2年掛かりました。)いつまで たっても現実のリリースの報告がありません。ですか ら、6月に“Pipeline" でこのアルバムからの音源がオンエアされたときには正直びっくりしました。…で早 速、Siubhal のサイトを確認したのですが、そこでは相変わらず "Coming Next" となったままでした。

 しかし、今回は確かにアルバム・レビューが載っているし、ボブさんの フォーラムでも既にアルバムをゲットした人の書き込みが盛んです。
 そこで、試しに NPC のオンライン・ショップを検索してみると、な〜んとちゃんとオンラインカタログに載っているではないですか。しか し、非常に紛らわしいのは、掲載されてい たのが Folk のコーナーだったのです。これじゃ、ピーブロック・ファンは通常見落としますよね。

 ちなみに、未だに本家本元の Siubhal のサイトでは購入できないし、CoP のオンライン・ショップにも載っていません。
 そんなかんなで、すったもんだした末にマスターズ Vol.9 と一緒にこのアルバムが手元に届きました。


 マスターズ Vol.9 には、bugpiper さんお好みの Lady Margaret MacDonald's Salute が入っています。また、タイミング良く今年のセット・チューンに入っていて、この ところの "Pipeline" で2週続けて音源ゲットできた Lament for The Duke of Hailton、チルドレン並に長い Scarce of Fishing、例のBBCビデオでお馴染みの Battle of Waternish と、シェーマスが言うところの "One of the most beautiful lament in Highland" である Lament for MacSwan of Roaig、そして、私の最初のピーブロッ クである MacGregor's Salute、などが入っていて、シリーズ最新作にして最も魅力的な内容になってい ます。

 しかし、今回のアルバムの中で私の耳を最も捉えたのは、実は私が初め て聴く(と思った) Nameless(Hihio Tro Tro)という曲です。「…と思った」という のは、音源コレクションをおさらいしてみると実はこの曲はパイプのかおり 第6話で 紹介した、Andrew Wright の“Canntaireachd and Piobaireachd”というアルバムにも既に入っていたからです。でも、その演奏を聴いた時にはあまり ピンときてなかったので、どちらにしても、この曲に開眼したという意味では、今回が最初だということです。
 バリエイション・パートも特に盛り上がるでもなく、終始たおやかなメロディー・ラインに終始するそれは一種独特な 雰囲気の曲で、同様な展開をする、Duncan MacRae of Kintail's Lament や The Old Woman's Lullbay にも通じ るものがあります。

 パイパー森は The Vaunting のように、グイグイグイ〜ッって盛り上がってパーッっと終わる典型的なピーブロック・パターンの曲も好きですが、一方でこの曲のように、言ってみれば「ウ ルラール3部構成&ノン・バリエイション」といった曲も大いに好みます。そのような曲では、そのたおやかなメロディーに 身を 委ねている内に次第次第にそのメロディー・ラインの展開にス〜と引き込まれて、まるで金縛りにあったようになりま す。
 なんて言うのでしょうか、「メディテイション・ピー ブロック」とでも名付けたらぴったり来るようなピーブ ロックのジャンルだと言えましょうか。おっと、元々ピーブロックって瞑想音楽ではありますが…。
 ナレイションでは Piobaireachd Society Book の P124(Book4)に収められていると解説していましたが、調べたら Kilberry Book(No.41)にも収録されていました。


  さて、続いていよいよ Allan MacDonald "Dastirum" の分厚い ブックレットを読みながら、このアルバムを聴き始めました。

 う〜ん、これはスゴイ! なんとも味わい深い。

 Alllan MacDonald と いう人は、ある種のピーブロックとその曲のベースとなった Gaelic Songs との関連性について研究。ピーブロックが誕生した当時は、現在演奏されているようなスタイル とは少々異なって、よりシンギングに近い演奏 だったはずだ、という考えを追求し続けています。

 そして、 ピーブロックが19世紀以降も一度も廃れることなく連綿と演奏され続けて来たことの最も大きな原動力となったパイピ ング・コンペティションのマイナス面を指摘。それは、1903年に設立されたピーブロック・ソサエティーが示す標準 的なスコアの存在によって、コンペの場で演 奏されるような曲が強く標準(ステレオ タイプ)化されてしまった事。そして、それによってピーブロックが持つ根源的な魅力をスポイルしてしまった、としています。

 このアルバムでは、彼のそのような持論に基づく、これまで聴いたこと のないような古(いにしえ)の解釈によるピーブロックの演奏や、前奏としてのゲール語によるシン ギングを聴く ことができます。

  ピーブロックに馴染みの浅い、通常の演奏をあまり聴いたことが無い人が聴くと、少々混乱してしまうかもしれません が、既にピーブロックを深く聴き込んでい る人にとっては、日頃から親しんでいる曲が、いつもとはちょっと異なった解釈で演奏されるのを聴くのは、大変興味深 いのではないでしょうか。

 それに加えて Barnaby Brown の製作するアルバムの常で、こ のアルバムもその音質がハイレベルなのが大きなメリットです。特にドローンの音色がビンビン響いて来るので、そ れを聴いてい るだけで陶酔してしまいます。ピー ブロックってのはつくづくドローンノートを味わう音楽だと いうことを痛感させられるような素晴らしい録音です。

 更に "Siubhal" レーベルの例 によって、凝りに凝ったジャケット&ブックレット(69ページ!)が 実に感動もの!

 あの A. J. Haddow の手になるケルティック模様が全面に配されたCDレーベル 面の仕上げは、私の持っているCDフォームのアルバム史上最高に素敵なデザインです。部屋に飾っておくだけでも所有 する価値があります。(→ブックレットの写真から PDFにリンクしています)


  Allan MacDonald が このアルバムで提示している世界は、ここ1、2世紀のピーブロック解釈に全く新たな次元を開くものであり、非常に意 義深いものだと思います。しかし、(あ えて念を押しておきますが)同時にこのアルバムはピーブロックをまだ十分に聴き込んでいない人には余りお薦めしたく ありません。
 ピーブロック初心者は、まずはそれだけでも何ものにも換え難い程の価値がある、一般的に伝承されてきた通常のピー ブロックの美しさを十分に味わって欲し いからです。このアルバムの示しているピーブロックの別の美しさについて知るのは、それからでも十分遅くはありませ ん。
 一方で、既に十分にピーブロックを味わっている方には、 ここで示されているピーブロックのもう一つの姿、よりオリジナルに近いであろう姿を味わってみることも是非お薦めし たいと思います。Allan MacDonald によってチャンターが正に朗々 と《唱い》あげるそれぞれのウルラールを聴けば、ピーブロックのさらに深淵なる世界を知ることが出来るでしょ う。

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