パイパー森の音のある暮らし《2007年
2007/1/20
(土)

300周年

 世界史(イギリス史?)的にみると、本年(2007年)はスコットランドがイングランドに併合された1707年から数えて、ちょうど300年周年に当たります。
 一昨日18日付けの朝日新聞夕刊には、1月16日がスコットランド議会がイングランドとの合併(イングランド側から見れば「併合」)を決めてから正に300周年の日だったということが書かれていました。

 そして、その記事の表題は「スコットランド、くすぶる独立論」というものでした。
 曰く、
ブ レア首相やブレア後の首相最右翼と目されるブラウン財務相(スコットランド出身とのこと)が、5月1日の合併300周年記念日の2日後に予定されているス コットランド議会選挙で、独立を唱えるスコットランド民族党(SNP)が支持を伸ばし、現与党第1党の労働党と入れ替わって第1党をうかがう勢いであるこ とに対して、強い危機感を表明している、とのこと。
 人口規模でイングランドの10分の1でしかないスコットランドは、客観的に見れば「政治、経済、文化、どの点をとっても」独立のメリットは少ないというのは明らかであるにも関わらず、世論調査によると、独立容認派のスコットランド人は54%に達する、と締めくくられていました。

  同じ島国でありながら、いわゆる《天下統一》の背景と歴史経過がかなり異なる日本という国から見ると、今の時勢に「スコットランドがイギリスから《独立》 する」となどということは、すんなりとは想像し難く、ある意味では荒唐無稽で非現実的な選択肢じゃないの? というのが正直なところではないでしょうか?

 でも、スコットランド独立論は、ここ10年程の間にも折に触れ取りざたされてきました動きですし、300周年ということでその機運が大いに盛り上がっているとすれば、それはそれでまた興味のあるところ。
 300年間に渡って延々と《併合》を心のキズと感じ続けてきたスコットランドの人々の心情に対しては、判官びいきを超えた純粋なシンパシーを感じるところです。

2007/3/31
(土)

久しぶりのシーズニング

 私は使った事が無いので分かりませんが、シンセティク・バッグの場合はバッグ内の湿気をいかにして除去するか? ということがいつも大きな課題になっているようですね。そして、その対策として様々な湿気除去装置が考案されているのもよく見かけます。

 一方、私のようにハイドバッグを使っていると、殆ど週末にしかパイプを吹かず、それも、せいぜいピーブロックを2、3曲しか演奏しないとなると、いかにして革(バッグ)に湿気を保ち柔らかなままにしておくか? という事の方が悩みの種です。

 たった2台のパイプでも、両方を交互に十分に吹き込んで、いい状態に保つというのが難しい。最近ではどうしても、Dunfion を吹くことが多いので、長年お世話になって来た Hardie の面倒が十分に見切れずに気が付くとバッグがバリバリに堅くなってしまっているという始末です。
 もちろん、そんな時でもピーブロックを2、3曲演奏すれば、革に適度な湿気が行き渡って柔らかくなるのですが、シーズニングが切れて来ると革の柔らかさが一週間は持ちません。土曜日に演奏しても日曜日にはまた堅くなっているという具合です。

 2004年1月1日にも書いた様に、私が半年に一回程のインターバルで定期的にシーズニングするのは、革をいつも柔らかい状態にしておきたいからです。
 この前シーズニングをしたのがいつだったかは忘れましたが、かなり時間が経過しているのは確かなようで、最近は(2台とも)演奏した翌日には湿気が抜けて革が堅くなってしまいます。
 こうなると、その日最初に空気を吹き込んだ時に張り付いたバッグの皺がバリバリと剥がれるような感じになり、状態としては甚だよろしくありません。こんなことをいつまでも続けていると革の表皮(内側)に決定的なダメージを与えてしまう危険性もあります。


 …で、本日は久しぶりにシーズニングをすることにしました。
 まずは、最近すっかり不遇をかこっている Hardie から。いつもの手順でブローパイプ以外のパイプを抜き、ストックにゴム栓をして空気を貯めます。パンパンになったバッグに体重を掛けて押しつぶそうすると…、ヤ、ヤバイ、どこからかスーと空気が抜けて行き、バッグが見る間に凹んで行きます。

  う〜ん、とうとう革に決定的なダメージが来ているのか? と懸念しながら、シーズニング液を注ぎ込み、革に潤いを与えていきます。しばらく揉みこんでから、再びストックにゴム栓をして空気を貯め、パンパンになっ たバッグに体重を掛けて押しつぶそうすると…、ヤ、ヤバイ、前と同じでスーと空気が抜けて行き、バッグが見る間に凹んで行きます。

 そこで、やっと気が付きました。なんと、ブローパイプをバッグに結わいつけている紐が緩んでいるではないですか。…で、触ってみると、あらあら、あっという間にほどけてしまいました。

 思えば、このバッグを新調した際に山根先生にタイイング・インしてもらったのは1992年のこと。それ以来、これまで何の不具合もなかったのですが、さすがに15年も経つと紐もちょっと疲労したのでしょう。

 行きがかり上、シーズニング液を入れたまま、急遽ブローパイプのタイイング・インをしました。意外に思われるかもしれませんが、実は、私は自分自身でタイイング・インをするのはこれが初めてです。これまではいつも山根先生のお世話になりっぱなしだったのです。
 でも、さすがに前回お世話になった際に「次は自分でやらなくちゃな〜」とキモに命じ、その後、タイイング・イン用の紐は取り寄せたあったのですが、思いの外、バッグも長持ちしていつまでもその機会がなかったのです。

 先生の絶妙な手技を思い出しつつ(タイイング・インの方法は CoPNPC のチューターに詳しく書いてあります)、しっかりとタイイング・インし直したところ、今度はパンパンになったバッグに体重を掛けて押しつぶそうとしても見事に機密性は保たれます。革自体に深刻なダメージがあった訳ではなさそうです。やれやれ、やっとシーズニング続行です。

 Hardie のシーズニングが無事に終了した後、続けて Dunfion もシーズニング。両方のバッグがしっとりと柔らかくなったところで本日のお楽しみは終了しました。

 あ〜、いつもながらシーズニングは楽しいですね〜。


 そういえば、どこかの掲示板でいつかバッグの寿命の話が出た事があったような記憶がありますが、私の様な使い方であれば、ハイドバッグは15年は全く問題なく使えるってことは証明されましたね。

2007/4/25
(水)

カンタラック?

 リンク集で紹介している、Pipes | Drums のサイト。しばらくぶりに訪れようとしたらリニューアルされて URL も変わっていたので、急いでリンク集を修正しました。

 特に Dr. William Donaldson が その年の Set Tunes について古い楽譜を引用して解説したコンテンツ(PDFファイル)が満載の Music のコーナーは貴重な資料として重宝していましたが、今回あらためてリストを確認してみると、曲によっては新たに Donaldson 自身によるカンタラック・シンギングの MP3ファイルが追加されていました。
 ただし、PDFファイルと違ってこの MP3ファイルはダウンロードが出来ないようでしたので、仕方なくデフォルトで起動する QuickTime で再生した音を「超驚録」でシコシコと録音してみました。でも、手間は掛かるし、音質も悪くなるので「こりゃ、とてもやってられないな〜」ってのが実感。

 … で、あちこちいじっていたところ、QuickTime プレイヤーの右端の▽マークをクリックするとプルダウン・メニューが出てきて、なんとその中に「このファイルを保存」という項目があることに気が付きまし た。「なんだ、一旦 QuickTime プレイヤーにダウンロードすれば保存できるのか〜」と、勇んで保存しようとしたら、「ファイルを保存したけりゃ QuickTime Pro を買え!」と来た。金3,400円也。

 う〜ん、そういう魂胆か。

 足下を見透かされてい るのは悔しいけど、かといって躊躇する間も惜しいので、即断即決で購入手続きを済ませて、片っ端からエッチラオッチラ、ダウンロード&保存を繰り返しまし た。全てのファイルの取込みが終わった後、まとめて iTune に読み込んでタイトル等を付け、チャンチャン!

 このコーナーで解説されている曲が全部で93曲なんですが、その内の1/3を超す、なんと33曲にこの MP3 ファイルが付いていました。
 いや〜、Donaldson さん、いつの間にこんなことをしていたのでしょう。ありがたや、ありがたや…。


 さて、肝心の内容(カンタラック)ですが、それがちょっと複雑です。

 パイプでの演奏と違って、カンタラック・シンギングは、もろに歌い手の個性(声の質や節回し)が際立ちますから、聴き手の好みがはっきりと分かれるところだと思います。
 …で、Donaldson さんの歌声についての好みを問われれば、私は「好きです」と答えるでしょう。ただし、このシンギングについて「カンタラックとしてはどうか?」ということになると、率直に言って「?」ということになります。

 いつか、Matt.B.B.さんが、ケルトのマウス・ミュージックを聴いて「おっさんのうなり声というか、まじないのような声が…」と表現されていましたが、Donaldson さんのシンギングというのは、まさにそんな感じのくぐもった声のクセが強い歌い方で、どう聴いてもいつものお馴染みの曲がまるでその曲とは思えないものばかりなんですね〜。
 中にはいつも聴いているバージョンとは異なったものを歌っているものもあるのようですが、単なるバージョン違いといったことを超えて、根本的なシンギングに馴染めません。
 最も違和感があるのは、この方、ウルラールもバリエイションも殆ど変わらないテンポで歌うので、相対的にウルラールのテンポが速すぎるということです。あれではどう考えてもそれぞれのウルラールの微妙なニュアンスが伝えきれていません。

  William Donaldson さんって人は、ピーブロック研究者としては超一流の方ですが、実際の演奏者としてはどうなんでしょう? 少なくとも、一人のパイパーとして師匠からあのようなカンタラックでピーブロックを伝承されたとは到底考えられません。

 多分、Donaldson さんにとってのカンタラックは、ピーブロックの伝承ツールとしてではなくて「上機嫌のオヤジさんが風呂場で歌う鼻歌」のようなものなんではないでしょうか?

 殆ど変化の無いバリエイションを端折ること無く飽きもせずに延々と唸っている様子を聴く限りでは、それはあながち外れていないように思えます。
 まあ、そう考えれば、このシンギング自体はそれはそれとして、なかなか味わいの深い「おっさんのうなり声」だと言えましょう。

 それにしてもオヤジさん、上機嫌なのはいいのですが録音状態にももうちょっと気を使って欲しかったですね〜。
 音源を聴いていると背後で常に「キュルル、キュルル…」というような妙な音が聴こえるので、最初は「何か?」と思いましたが、どうやら、このおっさん、 これらの鼻歌を安物のマイク内蔵型ポータブルカセット録音機で録音したようで、その音は多分、テープが本体内部のガイドレールかどこかを擦れている音のよ うです。中には音自体がユラユラ揺らいでいるような音源もあったりして、どうやらテープ走行自体がおぼつかない様な、歌い手同様にかなり年期の入った録音 機のようです。

 さらに、おっさん、時々盛大に咳き込むんですが、できたら、そんな時はマイクから口を離して欲しかったんですがね〜。


 あ〜、それにしても、世界中の殆どのピーブロック愛好家が日本語を解しないってのはいいですね〜。こんな不謹慎な事をネット上でしゃ〜しゃ〜と書いちまえるんですから。

2007/4/26
(木)

木製楽器の熟成

 おっさんと言えば、オヤジ世代のロックブームは相変わらず盛んみたいですね〜。中高年向けロック雑誌の創刊もまだまだ続いている様ですし…。ちょっと前の話になってしまいますが、3月末には NHK-hi で「ギター AtoZ 」という2時間番組をやっていました。
 若かりし頃にロックやフォークに夢中になってギターを演奏していた世代が中高年にさしかかり、時間に余裕が出てきて再びギターを手にする。また、この世 代は同時にお金にも余裕があるので、若い頃憧れていた有名ブランドのギターを所有することが出来る様になって、ギターショップはかってない活況を呈してい る。こんな世相を反映してこのような番組が製作されるのでしょうが、なかなか興味深い話が沢山紹介されていて楽しく観ることができました。

 ただ一つ、とても可哀想だと思ったのは、ギターのように愛好者人口が絶対的に多い分野では楽器の相対的な価値が高くなること、そ して、ギターの腕で財を成したポップスターなどがお金に糸目を付けずに稀少な名器に手を伸ばすこともあり、名の知れた年代物のヴィンテッジ・ギターが、投 機的な値段で取り引きされるような状況になってしまうということです。
 それに比べると、バグパイプは絶対的な愛好者の数が限られているし、ギタリストと違って「パイパーになってその道で財を成す」なんてことはあり得ないの で、ヴィンテッジ・パイプといえども馬鹿げた値段になりようがないのが幸いです。オールドヘンダーソンやマクドゥーガルなどはギターに置き換えたら数百 万、数千万円になっても不思議ではないのですが、いくらなんでもそんな話は聞いた事がありませんから。


 そんな投機的な値段が付いてしまうギターを巡る世界で、対照的な2つの話が印象的でした。

 一つは、ある日本人カントリー歌手の話。
 現在はアメリカ在住のこの方、何で財を成したのかは知りませんが、今や世界的なギター・コレクターということで、私でも知っている程に著名なカント リー・シンガーであるハンク・スノーの愛器といったような逸品など、一台数百万〜数千万のヴィンテッジ・ギターを数えきれない程所有しているそうです。
 そして、自宅に納まりきらない膨大なコレクションを保管している倉庫に案内して、曰く「有名な誰それは、ここに来るとあれやこれやの名器をとっかえひっかえ弾きまくって、日がな一日過ごして行く。」と自慢げに語っていました。
 さらに、これ見よがしにギター見本市で数百万のギターをポンと現金で買うシーンまで取材させたりして、当人はいたってご満悦でした。

 いや〜、これには無償に腹が立ちました。

 もし、あるお金持ちがストラディバリウスをその稀少価値が故に単に所有したいがために所有し、時たま楽器ケースから出しては悦に入って眺めているだけで、満足に演奏もせずに保管しているとしたら、それは世界中のクラシック愛好家から大変なひんしゅくを買うでしょう。
 名器は音を奏でてこそ名器たり得るのであって、音を奏でなくては真の価値は発揮されません。そこが、絵画や彫刻などの美術品と根本的に異なる資質です。まして、木で出来た楽器は演奏し鳴らし続けることによってこそ木質部が常に振動を受けて活き活きと輝き続けることが出来るのではないでしょうか。そうでなくては、名器もいつかは名器でなくなってしまうことでしょう。

  だからこそ、ストラディバリウスのような名器は、その時々の資産家が莫大なお金を投じてそのような名器を所有した上で、その楽器に値するような名手に(パ トロンとして)貸し与えて演奏させる、というようなことも広く行なわれてきたのだと思います。名器が名手の演奏で奏でられることによって素晴らしい音楽が 遍く広く人々の心に響き渡る、これこそが文化と言えるものでしょう。

 そのようなことから言って、先ほどの日本人ギター・コレクターの行為はまるで文化的な意味が欠如した、単なる成金趣味の愚劣な行為だと思います。
 そんなの個人の勝手だといってしまえばそれまでですが、何よりも可哀想だと思うのは当の楽器たちです。名手に奏でられればそれぞれが素晴らしい音を奏でることができる名器たちが、単に金持ちの所有欲の下で幽閉されている。正にこれこそ、Unjust Incarceration ( Iain Dall MacKay の作になるピーブロックの曲名)と言えるのではないでしょうか?


 一方、これと対照的な例は、ある欧米の売れっ子ロックだったかジャズのギタリスト(名前もどこの国の人だったかも忘れました)と、そのようなギタリストたちの要望に応じて特定のヴィンテッジ・ギターを探し出して来ることを職業としている人の話です。
 そのギター探索者が苦労の末にあるヴィンテッジ・ギターを探し出して来て、そのギタリストの手元に届けるシーンで、長年求めて来たそのギターを手にしたギタリストの言葉が非常に印象的なのです。
 正確にどう言ったかは忘れましたが、要は「様々な名ギタリストの手を経て来たこの楽器が僕にインスピレーションを与えてくれるんだ。こういう楽器を演奏していると、ギターの方から僕に語りかけて来る瞬間があるんだよ。」というような内容でした。興味深いことに、確かそのギターはソリッド・ボディーのエレキギターでした。

 売れっ子のギタリストがそのギターとギター探索者に支払った額は当然ながら相当な額であることは想像して余りありますが、この場合は金額の多寡とは関係なく、このギタリストのこの楽器に対する真の愛情が伝わって来ること、そして、その楽器が実際に名手の手によってこれからも盛んに奏でられるであろう、という点に於いて、前者の成金趣味のギター・コレクターの話とは根本的に異なります。


 この番組の中でもう一つ興味深いシーンがありました。
 それは、世界的に有名な日本のあるギター・メイカーの話です。このメイカーでは、出荷前のギターをある部屋に置いて熟成するのですが、その方法は、その熟成室に設置したスピーカーから大きな音量で延々と音楽を流す、つまり、ギターに音楽を聴かせるのだそうです。といってもこれは、よくある「(温室で)トマトにモーツァルトを聴かせると美味しくなる」といったマユツバなおまじないなどではなく、スピーカーから発せられる音波に新品のギターの木質部が共鳴して振動することによってそのギターの鳴りが良くなるというロジックで、言われてみればごく理にかなった考えです。

 このロジックに従うまでもなく、ハイランド・パイプもまた同じく木質系の楽器ですから、やはり演奏しつづけることによってこそ、日々熟成が進むということは同様でしょう。
 元々の造りの良さが最大の要因でしょうが、数十年から百年近く前に製作されたオールド・ヘンダーソンやマクドゥーガルが、そして、グレンが、現代の多く のパイパーに愛好されるのは、やはり長年に渡って多くのパイパーたちに演奏し続けられてきたことにより、木質のドローン・パイプが正に熟成の極に達してい るからなのでしょう。


 ごくごく限られた私のパイプとの付き合いからも、このことを実感する経験がありました。

 実は Dunfion パイプのチャンターは当初、Bノートが非常に不安定でした。同じリードを使っても Naill のチャンターだとスムーズに鳴るのに、Dunfion ではむずがる。バッグのプレッシャーを微妙に加減しないと、上手く鳴ってくれませんでした。あまりに煩わしかったので、しばらくの間 Naill のチャンターに換えていた時期もありました。
 しかし、Naill のチャンターヘッドは Dunfion のチャンタ−ストックの外径より太いため、Dunfion Naill のチャンターを付けるとチャンターヘッドが不格好に目立ってしまいます。せっかく外見にも惚れ込んでいるにも関わらず、肝心の手元が見苦しくてはあまりにも悔しいので、しばらして元に戻し、我慢しながらだましだまし演奏し続けていました。
 そうしたところ、しばらくて気が付くといつの間にか Bノートの不安定さは全く影を潜め、全ての音がスムーズに鳴るようになっていました。

 先月のこのコーナーでも書いた様に、革に常に適度な湿り気を与えてしっとりとした状態に保つバッグ・メンテナンスの意図もあり、最近はバグパイプを演奏する際には、Dunfion だけでなく、 Hardie も必ず鳴らすように務めています。
 手順としては、チャンター・リード(ケーン)のウォームアップを兼ねて、まずは Hardie でピーブロックを1、2曲演奏した後、そのリードを Dunfion に装着して演奏します。
 このようにしていて気がついたのですが、Hardie のチャンターでは、ちょっと強くプレッシャーを掛けると高音部が裏返ってしまうような堅さのリードでも、Dunfion のチャンターでは裏返ることも無く、何のストレスを感じる事も無くスムーズかつ素直に鳴ってくれるのです。

 続けて吹き込むことにより木部が熟成され、このように特性がダイナミックに変わって来るということを実感できるのは、木製楽器を演奏することの何よりの面白みではないでしょうか。

2007/5/1
(火)

タリスカー

 今から30年前の1977年、スコットランド旅行に旅立とうとしていた私は、東京パイピング・ソサエティーの山根さんから3つの用事を頼まれました。

  一つは、ニューカッスル郊外在住のノーサンブリアン・スモール・パイパー&メイカーであるコリン・ロスさんに、コルグのクロマチック・チューナーを届ける 事。何年か前に山根さんがロスさんを訪ねた際にプレゼントしたものをロスさんが大変気に入られて、ぜひもう一台欲しがっていたそうで、たまたまタイミング 良く私が渡英することになったため、運び役を仰せつかった訳です。当時このチューナーを現地で入手しようとしたらとんでもなく高価だったのです。

 そして、もう一つは、エディンバラのタータンショップで山根さんご自身用のデイ・ジャケット(サイズ指定)を入手してくること。

 これらの2つの用事は無事に果たす事ができたのですが、実は3つ目の「森さん、ぜひ『タリスカー』というスカイ島のウィスキーを買って来て下さい。これが、美味いんだよね。」という用件だけは、結局果たす事が出来ませんでした。


 そして、それ以来、私の頭の中には「タリスカー」という名前がきっちりと刻み込まれていました。その当時もそれ以降もアルコールにはからきし弱い私は、当然ながらウィスキーについても全く疎いので、ずっと後になって知ったのですが、「タリスカー(Talisker) 」はスカイ島で唯一の醸造所で生産されるシングル・モルト・ウィスキーの銘柄です。
 スペイ川沿岸を中心にハイランド各地には(島嶼部も含めて)ウィスキーの醸造所が沢山あり、それぞれ個性的なシングル・モルト・ウィスキーを生産している訳ですが、ピーブロックの聖地であるスカイ島には、何故かたった一ヶ所しか醸造所が無いのです。

 そんな「タリスカー」を私が実際に味わったのは、それからなんと27年後の事でした。それは、2004年の夏に大阪パイピング・クラブの T.M. さんが来京して下さった際です。
 最寄りの貸しスタジオと多摩川のいつもの場所で入手したばかりの Dunfion のパイプの音色をお聴かせした後、自由ヶ丘のアイリッシュ・パブで夕食、その後、仕上げに寄ったのが、そのアイリッシュ・パブから程近い場所にあるその筋では有名なシングルモルト・バー“Speyside Way”でした。
 お酒にはとんと疎い私でも、シングルモルトの有名な銘柄の幾つか位は知っていますが、この際オーダーするのは「タリスカー」をおいて他にありましょうか? なんといったって、日本を代表するピーブロック愛好家3人の内2人(自意識過剰?)が会して、存分にピーブロックを堪能した後なんですから。

 いや〜、それにしても、その時の「タリスカー」の美味かったこと。27年前に山根先生がおっしゃったことの意味が初めて理解できた瞬間、そして、パイパー森がスコッチ・シングルモルトの美味しさに目覚めた瞬間でした。


 27年前と違うのは、今やネットショッピングで我が家のリビングに居ながらにしてどんなシングルモルトでも容易く手に入るということ。“Speyside Way”での印象的な目覚めからは大分経過しましたが、山根さんに買って来る様に依頼されてからちょうど30年目の今年2月、私はネットショップで「タリスカー」を購入しました。なんと一番安い10年ものなら 2,980円というお手頃価格でした。

 相変わらずアルコールにはそんなに強くないので、飲むのはごくたまですし、量もブランデーグラスの底の方にほんの10ミリ程度。
 でも、ほんのそれだけでも、グラスを揺らすだけでスカイ島のピートの香りに満ちた豊潤なモルトに鼻腔をくすぐられ、心はあっという間にスカイ島へ瞬間移動。
 そして、アルコール燃費の抜群に良いパイパー森は、たった10ミリの「タリスカー」をその豊潤な香りを堪能しながら、たっぷり時間を掛けて飲み干す頃にはすっかりほろ酔い気分になり、常に座右に置いてある Dunfion “Dirk Handle Style Chanter”を手に取り、本体のブラックウッドをオイルを含ませたクロスで拭き上げては Dirk Handle の彫り込みを愛で、そして、ケルティックな組紐模様が彫り込まれたシルバーを銀磨き用クロスで磨き上げては、遥かなるハイランドに心を馳せるのです。

2007/5/3
(木)

いと香しき
ワックスド・ヘンプづくり

 パイパー森が山根さんに出会った頃のパイピングライフ話題からもう一つ。

 バグパイプをメンテナンスする上で最も欠かせないモノと言えば、なんといってもヘンプ(hemp/亜麻糸)でしょう。各ジョイント部分の巻き直しの際には大量に使いますし、木部やヘンプ自体の吸湿程度に応じて微妙に調整してジョイント部分をスムーズに動かせるように保つため、あるいはリードの音程調整の際など、日常的にも毎回のようにお世話になるモノです。

 さて、そのヘンプは 一巻きせいぜい数ポンドですし、今では、パソコンに向かって数クリックするだけで数日後には自宅のポストに投げ込まれるってな具合に、いとも簡単に入手で きてしまうので余り有り難みは感じられませんが、以前はこのような値段の安いモノ程、購入するのが面倒臭く思えたものです。
 なぜなら、海外から何かを購入する手間と経費は購入しようとするモノの単価に関わらず同じなので、そのモノの単価が安い程その手間と経費が大きな負担に感じられる訳です。
 例えばヘンプ一巻きを購入しようとしたら、送料と送金手数料(郵便為替が最も安かったですが、それでも確か1000円はしたと思います)などの経費を入れると、購入に掛かる費用は単価の2〜3倍になってしまうことでしょう。
 さらに、その前には単価と経費の合計金額を問い合わせる手紙をタイプしてエアメールで送らなくてはなりません。そして、返事が来るまでに1〜2週間。指示された経費を郵便局に出向いて送金し、荷が届くまでにさらに1〜2週間。たった一巻きのヘンプを入手するのに最低でもほぼ一ヶ月掛かりの大仕事になってしまうのです。


 最近では、普通のイエロー・ヘンプワックスされたイエロー・ヘンプ、25g巻きや50g巻きってな具合に、オンライン・カタログには様々なヘンプが載っています。さらに、ここ10年程前からはブラック・ワックスド・ヘンプも当然の様に取り扱われています。
 しかし、当時はヘンプといえばワックスされていないイエロー・ヘンプだけでした。ですからジョイントなどではヘンプを巻いた後にヤマハのコルクグリスを丹念に塗り混んで防水性を高める必要がありました。山根さんが使われていたのも当初はそんなヘンプだけでしたが、山根さんはある時、ロール全体がしっとりとロウ引きされたヘンプを持って来られました。
 「どうされた(どうやって作った)のですか?」と問うと、いつものニコニコした笑顔で「ロウで煮るんですよ。」と事もなげにおっしゃられました。そして「森さんも、一つ、どうぞ。」と真新しくロウ引きされたヘンプを一巻き譲って下さいました。私は宝物でももらったかのようにひどく嬉しくなって、家に帰って早速あちこちのジョイントを巻き直ししたのを覚えています。ワックスド・ヘンプの効果は絶大で、以降はコルクグリスの出番は大幅に減りました。

 その後、ほどなくして CoP のカタログにも、ワックスド・ヘンプ(waxed hemp)がリストアップされる様になりました。そしてある時、とあるオンライン・カタログに、ビーズ・ワックスド・ヘンプ(beeswaxed hemp)というのがあるのに気が付きました。蜜ロウを使ったワックスド・ヘンプです。どうやらこれの方がさらに良さげです。
 早速取り寄せてみたところ、山根さんから頂戴した普通のワックスド・ヘンプとは違って、美味しそうな蜂蜜の甘〜い香りがしてなんともナイスです。…で、それ以降、私が取り寄せて使うのはビーズ・ワックスド・ヘンプ、オンリーとなりました。

 蜜ロウの美味しそうな香りにすっかり味をしめてしまった私は、ある時 CoP のオンライン・カタログに beeswax の固まりがあるのに気が付き、あれやこれや注文した際についでにこれも頼んでみました。手元に届いたのは、小振りのチョコバー程の固まり。匂いを嗅ぐと例の美味しそうな蜂蜜の香りがします。

 さて、その蜜ロウの固まりが、私のツールボックスに入ってからもう10年程経つでしょうか。一方、同じツールボックスの中には、ワックスド・ヘンプが一般的になってからすっかり出番の無くなったワックスされていないヘンプが一巻き、手つかずのまま放置されていました。
 …で、五月の爽やかな風に誘われて、GWの連休中のお楽しみパイプ・メンテナンス作業として、20数年前に山根さんがやっていたワックスド・ヘンプづくりにトライすることにしました。
 具体的な作業手順は山根さんに聞いていないし、今時こんなことをやる人もいないのか、例の Andrew さんのサイトにも手ほどきされてないので、山根さんの「ロウで煮るんですよ。」の一言から、私なりに想像して次の様な手順でやってみました。


 ま ず、小振りの雪平鍋を用意します。キッチンばさみで小さく掻き砕いた蜜ロウを適当な量だけ鍋に入れ、ガスコンロに掛け弱火で温めます。琥珀色した蜜ロウの 破片は程なく解けて透明な液体になり、風薫る五月のキッチンには蜂蜜の甘〜い香りが充満します。鍋をガスコンロから下ろし、朝食の時に使うロウソク式の ティーウォーマーの上に移します。優しく温め続けながら、鍋を傾けて鍋の片隅に液化して透明になった蜜ロウの池を作ります。そこにヘンプをロールごと浸す と、解けた蜜ロウは乾き切ったヘンプにまたたく間に染み込みます。時々ロールを回してまんべんなく蜜ロウが染み渡る様に施し、ロール全体にたっぷりと蜜ロ ウが染み渡ったところで、いと香(かぐわ)しき手作りビーズ・ワックスド・ヘンブの完成です。チャンチャン! 大成功でした。


  私自身は決して嫌いではないのですが、家人にとっては言うまでもなく堪え難いと思われるあの独特の匂いのするシーズニング作業は、ドアを閉め切ったバス ルームの中で換気扇を回しながら行なうのが常です。そして、その度、まるでイングランドの迫害から逃れて山野をさまようハイランダーにも似た悲哀を感じる 所です。
 それに対して、世の中の大多数が好ましいと思うであろう蜂蜜の香りをキッチンの中に充満させながら行なうワックスド・ヘンプ作りは、パイパー森のパイプ・メンテナンス作業の中では珍しく家人の前でも堂々と行なえる行為だということが大いに気に入りました。

 今回のロールは25gのロールでしたが、それに使った蜜ロウは固まりの1/3程度でした。ということは、あと50gロール一本分程の蜜ロウが残った訳ですが、ツールボックスにはもうワックスしていないヘンプがありません。次に何か注文するときに、新しいヘンプも取り寄せて、またいつかこの香(かぐわ)しい作業をすることにしましょう。

 …といっても、実はもう既に当面使いきれない程の量のワックスド・ヘンプがあるのですが…。仕方が無いので、ドローンのジョイントを全部巻き直しましょうかね〜。

2007/5/5
(土)

SNP が勝利!

 今年1月のこのコーナーで書いた、さる5月3日に実施されたスコットランド地方議会の選挙結果です。次のとおりだそうです。行方が楽しみですね。

【アバディーン/英国 5日 AFP】
 英国放送協会(BBC)が伝えるところによると、3日投票の英地方選挙・スコットランド議会選挙で、スコットランド民族党(Scottish National Party、SNP)がトニー・ブレア(Tony Blair)首相率いる与党・労働党(Labour party)を抑えて勝利した。

  全129議席のうち、SNPが47、労働党が46、保守党(Conservative Party)が17、自由民主党(Liberal Democrats)が16議席を獲得し、残り3議席を他の政党が分け合った。ただし、獲得議席数の公式発表は、新投票システムの不具合や処理の遅れのた めすぐに出されなかった。

 この結果、50年におよぶ労働党によるスコットランドに対する締め付けは終わると見られている。SNPはスコットランドの独立に向けた国民投票を公約として掲げている。

 小選挙区・比例代表並立制のため連立政権となる見込みで、医療や教育などの分野では権限が限られる。このため、おそらく仲介役となる自由民主党との権力分配交渉に今後数日間が費やされる。

2007/5/26
(土)

LP レコード
の思い出

  先日、最近アコースティック・ギターに凝っている息子が「バート・ヤンシュのレコードが聴きたい。」と言い出したのですが、仕舞い込んだ LP レコードを出して来るのも面倒臭いし、第一もうレコード・プレイヤーをアンプから外して久しいので、「え〜い、この際中古 CD でも買っちまった方が手早いゼイ!」と判断。きっとここならバート・ヤンシュの CD 位何枚か有るだろう、と息子と一緒に“ディスク・ユニオン新宿ルーツ&トラディショナル館”に出向きました。実はこの前に、ディスク・ユニオンと名の付く店に入ったのはもうかれこれ20年以上昔のことですから、「ルーツ&トラディショナル」館なんてのも初めてでした。

 …で、お店に入ってびっくりしたのは、な、なんと、私の家にゴロゴロしているような1970年代のブリティッシュ・トラッドの LPレコードが信じられないような高値で取り引きされていること。
 松平さんとも親しかったというお店のチーフの方に伺うと、その多くは、当時欲しくても買えなかったあるいは何かのタイミングで買いそびれたようなファン、といったような人たちが、お金に糸目を付けずに当時のイギリス・オリジナル盤を求めるのだとか…。
 う〜ん、どうやらヴィンテッジ・ギターなどと同じで、レア物が投機的な値段に高騰しているようですね。
 ヴィンテッジ・ギターの場合なら「59年のレスポールは音色が違う」というようなことは確かにあるでしょうし、稀少価値が高くなる根拠に成り得ると思い ます。しかし、LP レコードの場合はどうでしょう? 確かにアナログの音を求める人が居るのは知っていますが、かといってスクラッチ・ノイズは避けられないし、扱いはメンド クサイし、何故なんでしょう? 唯一、優れたジャケット・デザインの作品の価値については十分に理解できますが…。とにかく、私は LP レコードというモノはすっかり価値が無くなってしまったのかと思っていました。

 しかし、稀少 LP レコードの高騰の是非はともかく、私 が妙に嬉しかったのは、そもそも70年代のブリティッシュ・トラッドを聴くような人種自体が絶滅してしまった、もっと言えば70年代のブリティッシュ・ト ラッドなんてものが存在した痕跡すら無くなってしまったのではないか?と勝手に思い込んでいたところが、実際は全くそういう状況ではなかったということを 知ったことでした。


 …で、世の中がそのような状況であるということを知ったところで、様々な想いが私の頭の中を巡り始めました。

 今年1月のこのコーナーでも書いたように、イギリス史的に言うと2007年はスコットランドがイングランドに併合された1707年から数えてちょうど300年周年の年ですが、一方で自分史的に言うと、今年は私があの松平稚秋さんらとともに“ブリティッシュ・トラッド愛好会”を立ち上げた1977年から数えてちょうど30周年を迎える年です。
 そしてまた今年は、私がこのまま何事も無く生き延びれば、松平さんが亡くなった年齢(53才)になんとか到達することができそうな年でもあります。

 つまり、今年2007年はパイパー森にとって、様々な意味で節目の年だと思えるのです。

 一方、現在の私の音楽生活はまるでピーブロック一辺倒になってしまっていますが、このような私を形作ったルーツ・ミュージックとも言えるのは、何と言っても1970年代に繰り返し聴いていた様々なブリティッシュ・トラディショナル・ミュージックです。
 そこで、あの当時愛聴していた様々な LPレコードをネタに、あの頃の思い出に耽ってみるのも一考かと思い立ちました。そこでは、1970年台初頭から1977年の“ブリティッシュ・トラッド愛好会”設立の前後まで、パイパー森が平均して週に3日毎回3時間余りを過ごしていた“BLACK HAWK”の様子にも折々触れてみたいと思います。それは、松平さんに対する何らかの供養にもなるような気がします。

 即断・即決・速攻が信条である私は、早速、屋根裏部屋の奥に仕舞い込んであった LPレコードのコレクションを出して来ました。当然、Pioneer 製の古いレコードプレイヤーも引っ張り出したのですが、長年使用しなかったため動作しません。ターンテーブルを外し内部を覗いてみましたが、広大な基盤の 上に集積回路やコンデンサーなどがびっしりと並んでいる様子をみて匙を投げました。仕方なしに、ネットで細々と売られていた Denon製 の安いレコードプレイヤーを購入。何とか音を出す事が出来る状況に漕ぎ着けました。そして、1枚1枚の LP レコードについて想いを巡らせる“パイパー森・My Roots Music”のコーナーを開設。

 2007年8月28日の“ブリティッシュ・トラッド愛好会”設立 30周年記念日、9月25日の私の53才の誕生日、10月15日の松平さんの8回目の命日、というそれぞれの節目の日までにどれだけのアルバムについて記 せるか分かりませんが、しばらくは気の向くままに当時の LPレコードに関する思い出話を書き綴ってみたいと思います。

2007/5/27
(日)

HAWKER HOUSE

 “BLACK HAWK”のことで思い出しましたが、“BLACK HAWK”の派生店たる“HAWKER HOUSE”というお店が実在したことは今となってはその事実を知っている人は殆ど居ないのではないでしょうか。
 といっても、パイパー森自身もこのお店が実際にいつからいつまでオープンしていたかについて定かに憶えている訳ではありません。ただ、私が“BLACK HAWK”に通い始めて何年かしたある時にオープンした(そして、程なく閉店した?)事だけは確かです。

 このお店は“BLACK HAWK”のオーナーであったMさんが、お酒を嗜むカウンター・バーとして「アフター“BLACK HAWK”を大人の雰囲気でゆったり過ごしてはどうですか?」というようなコンセプトでオープンしたように思えます。
 私は当時の“BLACK HAWK”の客の中では極端に若年だったのであまり典型例とは言えませんが、でも、他のお客さんも大体似た様なもので、一杯のコーヒーで何時間も過ごす様な人ばかりでしたから、「“BLACK HAWK”を出てから、“HAWKER HOUSE”でちょいと一杯。」という風に考える人は殆ど居なかったと思われます。
 しかし、唯一そのような行動を取りそうな人が、“BLACK HAWK”のレコード・ブースの主、松平稚秋さんでした。そして、実際にそうされているようだと、もっぱらの噂でした。

 私自身はたった一度だけしかこのお店に行ったことないので、正確な場所は憶えていませんが、概ね現在のマークシティーの方面だったと思います。
 その時、私は(元々アルコールには強くないし、第一まだ未成年の頃だと思うので)お酒ではなくてコーヒーを飲みましたが、カウンターの中にはMさんとM さんのお姉さんが居て、お姉さんの方が、もう一人のお客のオーダーに応えてフレンチ・トーストを作って出していた様子を何故かひどく鮮明に憶えています。 妙なことをしっかりと憶えているものです。人間の記憶って不思議ですね〜。

2007/9/23
(日)

Allan MacDonald の“Dastirum”他

 非常に奇特なあの Ken Eller さんがオリジナル音源を惜し気も無く次々と提供してくれる“The Captain's Corner”を筆頭に、週替わりのプログラムの中でほぼ毎週貴重なピーブロック音源がゲットできる BBC Radio Scotland の“Pipeline”、そして、月替わりのプログラムに必ず1つはピーブロック音源が入っている“CoP Radio”など、この1、2年、ピーブロックの音源をオンラインでゲットできる機会が飛躍的に増えるに従い、CD フォームのアルバムを買う意欲が徐々に薄れています。
 ピーブロックが1曲だけ入っているアルバムで未購入のものがまだ数枚あるのですが、それらの曲はどれも既に他の音源を持っている曲ばかりなので、以前のように
「世に出回っているピーブロック音源は何が何でも一つ残らずゲットするんだ〜っ!」と言う程に熱を入れて確保する気が起きないのです。

 しかし、そうは言っても全曲ピーブロックというアルバムについては話は全く別。躊躇すること無く「即購入!」です。


 実はここしばらく、そのようなアルバムのリリースが少なかったのですが、夏前に例のマスターズの Vol.9 がリリースされているので、なにかのついでにいずれ CoP のオンラインショップからでも入手しようと思っていました。

 ところが、先日届いた最新号の“Piping Today”のアルバム・レビューのコーナーに、このマスターズイのアルバムと並んで Allan MacDonald “Dastirum”のレビューが載っていました。また、6月の“Pipeline”ではこのアルバムからの音源が2週続けてオンエアされたり、また、同じ頃にボブさんのフォーラムでもこのアルバムについてのトピが賑わっていました。

 実は、このアルバムが、あの Barnaby Brown “Siubhal”レーベルからリリースのアナウンスされたのはもうかなり以前のこと。挙げ句のはてにちょうど一年前の6月号の“Piping Today”では、「もう間もなくリリース!」ということで、当人へのインタビューやアルバムのライナーノーツも引用した記事が載っていました。

 ところが、現実的には例によっていつもの Barnaby Brown ペースで(前作である Donald MacPherson“Living Legend”の場合はアナウンスから実際のリリースまでには約2年掛かりました。)いつまでたっても現実のリリースの報告がありません。ですから、6月に“Pipeline”でこのアルバムからの音源がオンエアされたときには正直びっくりしました。…で早速、Siubhal のサイトを確認したのですが、そこでは相変わらず“Coming Next”となったままでした。

 しかし、今回は確かにアルバム・レビューが載っているし、ボブさんのフォーラムでも既にアルバムをゲットした人の書き込みが盛んです。
 そこで、試しに NPC のオンライン・ショップを検索してみると、な〜んとちゃんとオンラインカタログに載っているではないですか。しかし、非常に紛らわしいのは、掲載されてい たのが Folk のコーナーだったのです。これじゃ、ピーブロック・ファンは通常見落としますよね。

 ちなみに、未だに本家本元の Siubhal のサイトでは購入できないし、CoP のオンライン・ショップにも載っていません。
 そんなかんなで、すったもんだした末にマスターズ Vol.9 と一緒にこのアルバムが手元に届きました。


 マスターズ Vol.9 には、bugpiper さんお好みの Lady Margaret MacDonald's Salute が入っています。また、タイミング良く今年のセット・チューンに入っていて、このところの“Pipeline”で2週続けて音源ゲットできた Lament for The Duke of Hailton、チルドレン並に長い Scarce of Fishing、例のBBCビデオでお馴染みの Battle of Waternish と、シェーマスが言うところの“One of the most beautiful lament in Highland”である Lament for MacSwan of Roaig、そして、私の最初のピーブロックである MacGregor's Salute、などが入っていて、シリーズ最新作にして最も魅力的な内容になっています。

 しかし、今回のアルバムの中で私の耳を最も捉えたのは、実は私が初めて聴く(と思った) Nameless(Hihio Tro Tro)という曲です。「…と思った」というのは、音源コレクションをおさらいしてみると実はこの曲はパイプのかおり第6話で紹介した、Andrew Wright “Canntaireachd and Piobaireachd”というアルバムにも既に入っていたからです。でも、その演奏を聴いた時にはあまりピンときてなかったので、どちらにしても、この曲に開眼したという意味では、今回が最初だということです。
 バリエイション・パートも特に盛り上がるでもなく、終始たおやかなメロディー・ラインに終始するそれは一種独特な雰囲気の曲で、同様な展開をする、
Duncan MacRae of Kintail's Lament The Old Woman's Lullbay にも通じるものがあります。

 パイパー森は The Vaunting のように、グイグイグイ〜ッって盛り上がってパーッっと終わる典型的なピーブロック・パターンの曲も好きですが、一方でこの曲のように、言ってみれば「ウルラール3部構成&ノン・バリエイション」といった曲も大いに好みます。そのような曲では、そのたおやかなメロディーに身を委ねている内に次第次第にそのメロディー・ラインの展開にス〜と引き込まれて、まるで金縛りにあったようになります。
 なんて言うのでしょうか、
「メディテイション・ピーブロック」とでも名付けたらぴったり来るようなピーブロックのジャンルだと言えましょうか。おっと、元々ピーブロックって瞑想音楽ではありますが…。
 
ナレイションでは Piobaireachd Society Book の P124(Book4)に収められていると解説していましたが、調べたら Kilberry Book(No.41)にも収録されていました。


 さて、続いていよいよ Allan MacDonald “Dastirum”の69ページにも及ぶ分厚いブックレットを読みながら、このアルバムを聴き始めました。

 う〜ん、これはスゴイ! なんとも味わい深い。

 Alllan MacDonald と いう人は、ある種のピーブロックとその曲のベースとなった Gaelic Songs との関連性を解き明かし、そのようなピーブロックでは、その曲が誕生した当時は、現在演奏されているようなスタイルとは少々異なって、より、歌に近い演奏 だったはずだ、という考えを追求し続けています。

 そして、 ピーブロックが19世紀以降も一度も廃れることなく連綿と演奏され続けて来たことの最も大きな原動力となったパイピング・コンペティションのマイナスの側 面として、1903年に設立されたピーブロック・ソサエティーが示す標準的なスコアの存在によって、コンペの場で演奏されるような曲が強く標準(ステレオ タイプ)化されてしまったこと、そして、そのことによってピーブロックが持つ根源的な魅力をスポイルしてしまった弊害がある、としています。

 このアルバムでは、彼のそのような持論に基づく、これまで聴いたことのないような古(いにしえ)の解釈によるピーブロックの演奏や、前奏としてのゲール語によるシンギングを聴くことができます。

  ピーブロックに馴染みの浅い、通常の演奏をあまり聴いたことが無い人が聴くと、少々混乱してしまうかもしれませんが、既にピーブロックを深く聴き込んでい る人にとっては、日頃から親しんでいる曲が、いつもとはちょっと異なった解釈で演奏されるのを聴くのは、大変興味深いのではないでしょうか。

 それに加えて Barnaby Brown の製作するアルバムの常で、このアルバムもその音質がハイレベルなのが大きなメリットです。特にドローンの音色がビンビン響いて来るので、それを聴いているだけで陶酔してしまいます。ピーブロックってのはつくづくドローンノートを味わう音楽だということを痛感させられるような素晴らしい録音です。

 あ〜と、それから例によって凝りに凝ったジャケット&ブックレットってのがまたスゴイんだな〜これが。あの Haddow の手になるケルティック模様が全面に配されたCDレーベル面の仕上げは、私の持っているCDフォームのアルバム史上最高に素敵なデザインです。部屋に飾っておくだけでも所有する価値がある!


  Allan MacDonald が このアルバムで提示している世界は、ここ1、2世紀のピーブロック解釈に全く新たな次元を開くものであり、非常に意義深いものだと思います。しかし、(あ えて念を押しておきますが)同時にこのアルバムはピーブロックをまだ十分に聴き込んでいない人には余りお薦めしたくありません。
 ピーブロック初心者は、まずはそれだけでも何ものにも換え難い程の価値がある、一般的に伝承されてきた通常のピーブロックの美しさを十分に味わって欲し いからです。このアルバムの示しているピーブロックの別の美しさについて知るのは、それからでも十分遅くはありません。
 一方で、既に十分にピーブロックを味わっている方には、ここで示されているピーブロックのもう一つの姿、よりオリジナルに近いであろう姿を味わってみることも是非お薦めしたいと思います。Allan MacDonald によってチャンターが正に朗々と《唱い》あげるそれぞれのウルラールを聴けば、ピーブロックのさらに深淵なる世界を知ることが出来るでしょう。

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