ハイランド・パイプに関するお話「パイプのかおり」 |
第35話(2014/5) The Daughter's Lament ■ Ronald MacDonald of Morar's Lament その後 ■ 2013年12月に書いた Park Piobaireachd No.2 に関するパイプのかおり第33話の 最後で「2014年にはこの曲を完奏するぞ!」とばかりに大見得を切ったのですが、その後の進歩は余りはかばかしくありません。D-Taorluath の上達の方はまあまあなのですが、何故か曲全体を上手く消化しきれないのです。あちこちに Grip beat が挿入されて変拍子的雰囲気を持つ Taoluath バリエイションがキモなのですが、やっぱりこれが難しいですね〜。そもそも私はリズム感が悪いんですよね。 そんな折、自分用にセレクトした楽譜集(アルファベット順に並んでいる)の次のページにある Ronald MacDonald of Morar's Lament に随分久しぶり(10年ぶり?)にトライしてみたら、なんかイイ感じで演奏できそうになっている自分を発見。 実はこの曲にも、D-Taorluath が沢山出て来るのですが、Park Piobaireachd No.2 を演奏したいがためにこの装飾音に本気で取り組んだお陰で、今回はそれらの D-Taorluath がすんなりと演奏できてしまったのです。10年前に半年くらい悪戦苦闘した末に投げ出した経緯はなんだったか忘れていましたが、どうやらその際につまづい たポイントの一つはこの装飾音だったような気がします。 以前も Lament for Patrick Og MacCrimmon に取り組んでいた時、どうしても Embari が上手く出来なくて結局一旦あきらめ、やはり Embari が出て来る曲でかつよりシンプルな Lament for MacSwan of Roaig の練習に励みこの曲をなんとか習得した末に、再び Patrick Og にトライしたところ今度は Embari でつっかからなくなっていました。 ピーブロックの習得というのはこんなことがあるので、ある曲でどうしてもつっかかる装飾音があった際には、一旦その曲から距離を置いて、同じ装飾音が出て来るけど若干シンプルな曲を選んでそっちを先に習得するってのが一つの手かもしれませんね。 そんなかんなでここ3ヶ月間この Ronald MacDonald of Morar’s Lament に励んだ結果なんとか自分でも満足するような演奏が出来る様になり、実に数年ぶりにレパートリーが増えました。 それから、Gavin Stoddart の演奏をお手本にした理由の一つは、やはり Crunluath-a-mach です。 その一方で、楽譜が完全に頭に入って自在に演奏できるようになってみると、たおやかなメロディーの浮遊感を味わうこの Morar’s のような曲では、その時の気分でテンポを変えて演奏するという楽しみ方が出来るという事を実感します。ある時は恐れ多くも、John Burgess の「神の領域」の演奏を真似て思いっきり各音を保って演奏、ってなこともしてみます。もちろん、そんな時は Crunluath-a-mach は演奏しません。あの The Sister's Lament のように潔(いさぎよ)く静かに終焉を迎えます。 ■ 「泣き」の Embari ■ さて、数年ぶりにレパートリーが増えたところで欲が出て来て、セレクト楽譜集の中から次の課題曲を漁りました。またもや Park Piobaireacdh No.2 からは腰が引けてます。 結局、Embari が頻出する The Daughter's Lament に的を絞りました。やっぱり「泣き」の Embari でしょ。家族間ラメントの極めつけ The Sister's Lament はもうちょっと後で…。 私がこの The Daughter's Lament を初めて聴いたのは Dr. Dan Reid Memorial Concert の 2000年の CD に収録されていた Bill Livingstone の演奏音源でした。直ぐにお気に入り曲になったのは言うまでもありません。その次の音源は苦労の末に2004年にやっと入手できた Dr. Dan Reid の1996年のカセットに収録されていた William McCallum による演奏。また、Bill Livingstone の演奏は 2005年にリリースされた A Piobaireachd Dairy シリーズの Vol.3 にも別のテイクが収録されています。 ピーブロックの音源を聴く上で、一つの曲について複数のパイパーの異なった表現を聴き比べるのはごく当たり前の楽しみ方ですが、一方で一つの曲について同じパイパーの複数の演奏音源を聴くことができる事もよくあります。 Bill Livingstone 自身も A Piobaireachd Dairy シリーズの中で「夫々のシチュエーションが演奏者に与える影響を聴き比べ欲しい。」という意図を込めて、収録されている曲の内3曲についてはスタジオ録音 (やり直しが効くというリラックスしたシチュエーション)とコンペティションでのライブ録音(一発勝負!の緊張感)という二通りの音源を収録しています。 しかし、そのような場合でも(例え演奏された時点の年月が相当離れていたとしても)その表現が大幅に変化していることは殆どありません。それは、熟達した パイパー達がある曲を人前で演奏するに至るまでには、それ相当のレベルにまでその曲の解釈の完成度を高めてから臨むからなのだと思われます。 そのような中で、この The Daughter's Lament に於ける William McCallum の3つの音源については、そのような定石が当てはまらない特異な例外です。 William McCallum には数多くの演奏音源が有りますが、その中で Big Spree についてもこの曲と同様に、1996年の演奏と5年後の2001年の演奏とで 12:18→13:18 と大幅にテンポが遅くなっている例があります。 ご存知のとおり、パイパー森は「あらゆるピーブロックはゆっくりであればある程良い」というのが信条ですから、当然ながらこの曲の演奏音源の場合は William McCallum の 2010年 Glenfiddich のものが最も好ましく感じられます。悠々としたこの演奏を聴いてしまった今となっては、その他の音源は聴く気がしなくなってしまいました。 ということで、この音源を手本に The Daughter's Lament の練習を始めました。 気になったので、この曲の他の6つの演奏音源を聴き直してみました。 真似るのが得意な私もそれに倣ってこの曲の Crunluath はオールドスタイルで演奏することにしました。 The Daughter's Lament の楽譜は David Glen‘s Ancietn Piobaireachd(1880)に入っているものが著作権フリーで閲覧(ダウンロード)可能です。パイプのかおり第17話で紹介した Ceol Sean のサイトのこのページから。Number #1731 です。
この当時の楽譜は装飾音が全て表記されているので眺めるだけでぞっとします。特に、この楽譜では Taorluath や Clunluath がオールドスタイルな表記になっているので余計に込み入って見えます。
さて、楽譜をご覧になってお気づきになったかもしれませんが、GABDE のペンタトニックで構成されるこの曲では、HighA と HighG
の間を行き来する動きが沢山出てきます。最初は気にせずにこれまで通りハイランド・パイプの原則的な運指で演奏していたのですが、よく考えてみたらこのよ
うな曲の場合の HighA は薬指を下ろす指遣いではなくて、ピーブロック HighG
で下ろしている中指を下ろしたままホールドして単に親指を離すだけの指遣いの方が、遥かに合理的だと気が付きました。 ↓は David Glen‘s Ancietn Piobaireachd 名物、Fionn 名義によるこの曲の歴史的な背景の説明。要は由来は明確では無いということで、少々難解ですが…。
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